ザ・ビートルズの人間らしさが詰まった『Let It Be』スペシャル・エディション

1969年1月7日、トゥイッケナム・フィルム・スタジオでのザ・ビートルズ(Photo by Ethan A. Russell/© Apple Corps Ltd.)

ザ・ビートルズ最後のオリジナルアルバム『Let It Be』が、最新リミックスや未発表音源などを追加したスペシャル・エディションで再発。11月にDisney+で配信されるドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』と共に、これまで誤解されてきたセッションの過程に新たなスポットライトを当てている。今回のリイシューにおける聞きどころを掘り下げた、米ローリングストーン誌のレビューをお届けする。

1969年1月のある冷え込む朝、リンゴ・スターはロンドンにあるトゥイッケナム・フィルム・スタジオに入ると、「ごきげんよう」とバンドメンバーに声をかけた。「またいい天気だね。カメラさんも、おはよう」とご機嫌な様子だった。

ザ・ビートルズがスタジオ内で交わす何気ない会話からは、ファブ・フォーのありのままの姿を垣間見ることができる。彼らの個性的な魅力やメンバー同士の関係性が、くすんだステンドグラス越しに透けて見えてくる。「You’ve Got to Hide Your Love Away」(邦題:悲しみはぶっとばせ)は、ジョン・レノンが書いた最も美しく心に染みるバラードの1曲だと言える。しかし『Anthology 2』に収録されたバージョンを聴くと、誰もが笑わずにはいられないだろう。ジョンが曲を始めようとしたところでポール・マッカートニーがグラスを落として割ってしまう。するとジョンは、即興のラップで場を和ませる。50年以上前のやり取りを聞いていると、史上最高のバンドも人間だったのだと実感できる。




『Let It Be』のレコーディングと撮影が行われたトゥイッケナム・スタジオにおける乱雑で和気あいあいとした雰囲気を伺えるのは、とても貴重だ。『Let It Be』の新たなスペシャル・エディションは、先にリリースされた『Sgt. Pepper』『the White Album』『Abbey Road』のボックスセットとは異なり、新たな事実を浮き彫りにする作品だ。バンドは解散寸前の状態だったが、グラスを割っても即興ラップで切り抜けるような雰囲気がまだ残っていた。

『Let It Be』5枚組ボックスセットは、書籍『ザ・ビートルズ:Get Back』(ネタバレ注意:本書にはバンドが交わした会話も記録されている!)や、ピーター・ジャクソン監督による同名のドキュメンタリー映画(ネタバレ注意:当時のバンドはまだ仲が良かった)と共に、『Let It Be』誕生の軌跡を記録する資料となっている。各資料はバンドを巡るさまざまな謎を解く記録でもあり、特にアルバムのスペシャル・エディションからは、ポールが当初から目指していた音楽の理想像が見えてくる。「ザ・ビートルズを記録する理想的な形だ」とポールは、デラックス・エディション付属のハードカバー本の前書きで述べている。

Translated by Smokva Tokyo

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