Tirzahが語る、謎多きサウンドの秘密「音楽とはテクスチャーと色彩で表現するもの」

ティルザ(Courtesy of Domino Records)

ティルザ(Tirzah)が2ndアルバム『Colourgrade』を発表。インディー~R&B~エレクトロニック~エクスペリメンタルを横断するロンドンの鬼才が、ミステリアスな音楽性の秘密、家族や友人との絆について語った。

ロンドン郊外の静かな町シドカップに暮らすティルザ・マスティンは、子供たちを寝かしつけたばかりだった午後10時に、筆者との初めてのビデオ通話に応じてくれた。すぐそばにある子供部屋のモニターから聞こえる音は、レコードに針を落とした時の緊張感に満ちたスクラッチノイズを想起させる。幼い頃からホワイトノイズが好きだったという現在33歳のシンガーソングライターにとって、子供たちの静かな寝息はそれに近いものなのだろう。

比較的短期間のうちに、ティルザの人生は劇的に変化した。2018年発表のデビュー作にしてカルトクラシックとなった『Devotion』から現在に至る3年間で、彼女のアーティストとしてのキャリアは思いがけず本格的なものになった。同作のリリースからしばらくして、彼女はKwake Bassの名で活動するミュージシャン仲間のGiles Kwakeulati King-Ashongと家庭を築き、2人の子供の出産を経験した。そして先日、彼女はR&Bや実験的なエレクトロニックミュージック、そしてアートポップの狭間を行き来する幽玄なラブソングに満ちた2ndアルバム『Colourgrade』を発表した。「私にとって音楽とはテクスチャーと色彩で表現するもの」。アルバムのタイトルについて、ティルザはそう説明する。



成功を収めた現在でも、ティルザはよりメインストリームを意識したサウンドを追求しようとはしない。そもそも彼女は、自分にそういう才能があるとは思っていない。「ずっとクレヨンで絵を描いていた人が、ペイントブラシが苦手だと感じるようなもの」。彼女はそう話す。ティルザにとって、音楽は仲間たちとの交流の中からしか生まれ得ないものだという。名義こそ彼女の名前になっているが、すべての曲は幼馴染で親友のミカ・レヴィとのコラボレーションによるものだ。「多くの人が携わるプロジェクトに私の名前を冠しただけ、そういう感じ」。彼女はそう話す。「私は駒の1つでしかない」

13歳の時、ティルザはイギリス最古の子供を対象とした音楽学校Purcell School for Young Musiciansでハープを習い始めた。そこで出会った彼女とレヴィはすぐに打ち解けたが、両者とも以降20年間にわたってコラボレーションを続けることになるとは夢にも思わなかった。レヴィがコンピューターで作ったグリッチーなビートに、ティルザは即興で歌詞とメロディを乗せていたという。「長い間、特に目的もなく曲を作ってた。それがいつの間にか習慣になってた」。彼女はそう話す。

もし何らかの理由でレヴィが曲を作ることをやめたとして、それでも音楽を続けるかという筆者の問いに対し、彼女はしばらくのあいだ黙って考えていた。単なる仮定の話だが、彼女にとっては想像もしたくないことだったようだ。レヴィとのコラボレーションがない状況など考えられないという彼女は、「ノーコメント」とした上でこう続けた。「ミークスが曲を書くのをやめるなんて、絶対にあり得ないもの」

Translated by Masaaki Yoshida

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