松本隆がアイドル界・歌謡曲界に変革をもたらした70年代後半から80年代を辿る

ふるさとをあげる / 岡田奈々

1975年12月に発売になりました岡田奈々さん2枚目のアルバム『憧憬(あこがれ)』より「ふるさとをあげる」。岡田奈々さんはポニーキャニオンのアイドルですね。松本隆さんは3枚のアルバムの全曲の詞を書いてます。岡田奈々さんのデビューが1975年5月。1stアルバムが出たのが1975年7月。ちょうど太田裕美さんと重なっているんですよ。太田裕美さんの方が半年早いんですけど、1975年、1976年というのは太田裕美さんと岡田奈々さん、2人のアルバムの全曲を書いているんですね。太田裕美さんはあれだけヒットして話題になりました、岡田奈々さんは残念ながらヒット曲があまり出なくて、語られることがあまりないなと。私もスタジオジブリの機関誌『熱風』で連載をしなければ、たぶんこのアルバムには出会わなかった。そんなアルバムなのですが、この頃の松本さんの実験で言うと、岡田奈々の方が色が濃いのではないでしょうか。

例えば、作家。太田裕美さんは筒美京平さんという大パートナーがいましたけど、岡田奈々さんはいろいろな作曲家を起用しています。起用したのは松本さんで、アルバム『憧憬』には6人参加しているんです。この曲は実川俊さんという、早稲田のキャンパスフォークの人だったのですが、他には瀬尾一三さんとか、佐藤健さんとか。歌謡曲系の人も何人かいるんですけど、そちらはいろいろな事情だったんでしょうね。アレンジャーで林哲司さんが起用されていたり。佐藤健さんは大橋純子さんのご主人で、後に美乃家セントラル・ステイションを組むわけで。林哲司さんはこの時、アレンジで起用されていて、後に竹内まりやさんの「September」の作曲家として世の中に大々的に出ていくわけですね。松本さんのクレジットも作詞だけじゃなくて、構成・作詞なんです。これは太田裕美さんも同じなんですよ。

これが今日、お話をしたいことでもあるんですけど、詞の世界も太田裕美さんよりもバリエーションが多い。「ふるさとをあげる」は詞をあらためてお読みいただくと分かるのですが、「木綿のハンカチーフ」のアナザーサイドに聞こえる。「木綿のハンカチーフ」は都会の絵の具に染まったあなたが歌われているんですけど、この「ふるさとをあげる」は都会から田舎に帰ってくる、その人を迎える歌なんです。都会の絵の具に染まらなかったあなたに向けた歌なんですね。つまり、両面のストーリーを書いて、片方が極端にヒットしたという、そういう曲なんだと思いましたね。

岡田奈々さんの三部作は松本隆幻の三部作として、あらためて注目されるべきなのではないかということで取り上げました。で、松本隆さんは太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」がヒットして、状況が変わるわけですが、その後に出たのがこれですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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