バッドバッドノットグッドが極意を明かす 懐かしくも新しいサウンドメイクの秘密

バッドバッドノットグッド(Photo by Jamal Burger)

トロントの3人組、バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD、以下BBNG)はケンドリック・ラマー、タイラー・ザ・クリエイター、フランク・オーシャン、サンダーキャット、ダニエル・シーザー、カリ・ウチスなどに起用されてきたインスト・バンドだ。もともと同時代のジャズ・ミュージシャンとは一線を画すアプローチでヒップホップ/ネオソウルを生演奏していたが、2016年の前作『Ⅳ』では方向性を大きく変えて、ブラジリアン・フュージョンやMPBからの影響を感じさせるファンキーでサイケデリックなサウンドを披露していた。

あれから5年。通算5作目のニューアルバム『Talk Memory』では、70年代のジャズロックや、ノイジーなフュージョンのレコードみたいなサウンドが鳴っている。かなりの部分が即興演奏で構成されていて、ほぼ一発録りのような臨場感と生々しさがある。「本当に2021年の新譜?」と思う人もいるかもしれない。だが、よく聴くと音像は現代的だし、演奏のディテールも70年代には聴かれなかったものだ。

ゲスト陣の顔ぶれも興味深い。テラス・マーティンのサックス、カリーム・リギンスのドラム、ブランディー・​ヤンガーのハープ、ニューエイジの巨匠ララージの奏でるチター、ブラジルの奇才アルチュール・ヴェロカイによる弦楽アレンジ、フローティング・ポインツのエレクトロニクスまで入り混じっていて、明らかに今の時代でなければ作れないアルバムにもなっている。

どこか懐かしいサウンドだが、不思議と新しさも感じられる。はっきり言って謎だらけのアルバムだし、これまでのファンもびっくりだろう。それくらいチャレンジングな作品だ。だからこそ、僕はしっかり話を聞くべきだと思った。回答者はチェスター・ハンセン(Ba)とリーランド・ウィッティ(Sax, Gt)。



タイムカプセルになっていたスタジオ

―『Talk Memory』のコンセプトを教えてください。

リーランド:これまでたくさんツアーをしたり、音楽を録音してきたことがまず背景にあった。僕たちが(2010年に)バンド活動を始めてから、全てが目まぐるしく進んでいき、(前作『IV』のツアーを終えて)ようやく一息つけたところだった。その休止期間で、今までのことを振り返ったり、個人として成長することができたんだ。そして、その期間に充電したエネルギーを、みんなで再び集まったときにバンドとして一つに合わせて、今回はより簡潔で、意図された集合体のように感じられる音楽を作ろうとした。その一方で、レコーディングの過程はとてもオーガニックなものにして、様々な分野からのコラボレーターを今回のプロジェクトに入れられるような余裕も持たせるようにした。

チェスター:リーランドが説明したように、今回はこれまでの作品よりも、全体的にもっと意図された気持ちで制作に取り組んだのと、グループとしての一体感が強くなったアルバムだと思う。

―このアルバムがどうやってレコーディングされたのか、みんな気になると思います。「GoPro Music: Presenting BADBADNOTGOOD」という2017年の動画を見ましたが、今回使われたヴァレンタイン・レコーディング・スタジオはすごく特殊な環境みたいですね。

チェスター:実は、あの動画の撮影で初めてヴァレンタイン・スタジオに行ったんだ。もともと「将来、ここでレコーディングできたらいいな」って漠然と思っていたけど、実際にあそこで少し演奏してみたら、ムードや機材に感動してしまった。

ヴィンテージの機材が使えるスタジオは他にもあるけれど、ヴァレンタインがユニークなのは、あの場所がタイムカプセルになっていたということ。80年代から2010年くらいまでずっと閉鎖されていたからね。その期間はスタジオの改修工事も行われなかったし、新しい機材が搬入されることもなかった。現在エンジニアを務めるニックが再びスタジオを開けるまで、全ての機材がそのままの状態にされていた。だからスタジオには特別な雰囲気があって、あの空間に入ると、かつて人々がどのようにレコーディングをしていたのかを感じ取ることができるんだ。

リーランド:僕たちはヴィンテージの感覚が大好きで、自分たちが持っている、もしくは欲しいと思う楽器や機材は50年代から70年代のものが多いんだけど、ヴァレンタインではそういったものが、スタジオが長期間閉鎖されていたから完璧な状態で保管されていた。でも一番重要だったのは、スタジオにいることで孤立した感覚が生まれて、プロジェクトに集中できたことだね。ヴァレンタインはパソコンの画面や最新技術がないから、自分たちが作り出している音楽がその場で起こっている全てという実感があった。スタジオにいた人たちが一丸となって制作活動ができたのはユニークな過程だったし、それが最高だったね。


LAのヴァレンタイン・レコーディング・スタジオは、エンジニアのジミー・ヴァレンタインが1964年に開設。かつてビング・クロスビーやビーチ・ボーイズ、フランク・ザッパなどが使用してきたが1975年頃に閉鎖。2015年にエンジニアのニック・ジョドイン(Nic Jodoin)が再オープンさせた後はハイム、ラナ・デル・レイなども使用している。

Translated by Emi Aoki

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