『マスクド・シンガー』制作者が手がける新オーディション番組、売りは「拡張現実」

ARとVRを組み合わせた未来のコンサート

実際のところ、『Alter Ego』の前提のキモはいたってシンプルだ。イメージを重視することなくアメリカの次のスターを探すこと、とにかくこの点に尽きる。もっともわかりやすい例として、『ザ・ヴォイス』がまさにそうだ――だが素晴らしい声を持った出場者を選んだあと、審査員が椅子をぐるりと回して向きを変えると、そこで謎は解けてしまう。『ザ・ヴォイス』の優勝者がショウビズ界のエコシステムに足を踏み入れ、レコードレーベルやマーケティングプランなどが絡んでくると、周囲に溶け込みたいという欲求を跳ね除けることは一層難しい。

だがCOVID-19パンデミック中の自宅待機から学んだことがあったとすれば、昨今では「現実世界」でできることはごくわずかだ、ということだ。望むか望まざるかに関わらず、我々はデジタル・スーパースターを生む世界に生きている。

例えばCGIのインフルエンサー、リル・ミケーラはInstagramで300万人のフォロワーを誇り、Spotifyでは月間25万人が視聴している。2016年にオンラインに姿を現した彼女は、まさに現実と仮想の扉をこじ開けた。だが現実の世界がロックダウンに見舞われたのを受け、ワーナーミュージック・グループは2020年にバーチャルアーティスト・レーベルSpirit Bombに投資し、2021年にはバーチャル・エンターテインメント会社WaveとバーチャルコンサートをホストするビデオゲームRobloxにも投資した。もちろん、ライブストリーミングはパンデミック中に一大ブームとなり、Live Nationのような巨大企業ですら、ベンジーとジョエルのマッデン兄弟が運営するVeepsを買収した。フォートナイトのようなゲームでの単発ライブも今や珍しくない。理屈の上では、『Alter Ego』の優勝者が今後生身の姿を見せることなく、ショウの予定でスケジュールを埋めることもあり得る話だ。

技術開発者らも、デジタルアーティストにそれなりのツアーを実施するのに必要なあらゆるツールを、どうすれば対面式コンサートのチームに身に付けさせられるか模索している。すぐには実現不可能だとしても、それほど遠い未来でもない。ジンマンも、パンデミックに絡んだ休業でFOXが1年でクリアしたハードルも、以前だったら2年かかったはずだ、と言う。この春ローリングストーン誌が掲載したコンサートの未来に関する記事で、コンサートデザイナー兼複合現実のスペシャリストであるコーリー・フィッツジェラルドは、2~3年後にはこの分野でメインストリームになると思っていたクリエイティヴな開発が、わずか数カ月で実現されたと語った。

「将来的にはGoogleメガネのようなものを使うことになると思いますよ――観客はデバイスを装着して、デバイスが生成する実物大のアバターを見るようになります」とジンマンは、図らずして、先の記事でのフィッツジェラルドの発言と同じ意見を口にした。同じくコンサート技術の専門家で、Silen House社のCEOを務めるバズ・ハルピンが言っていたこととも相通じる。「仮想現実が我々の未来になるでしょう」とハルピン氏は言い、メガネをかけるとレディー・ガガが「レイン・オン・ミー」を歌う中、バーチャルのカラフルな雨が頭上から客席に降り注ぐ様子を思い浮かべてほしい、と語った(これらは5Gがどのタイミングで定着するかによるが、そう遠くはないと思われる)。

Translated by Akiko Kato

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