遅咲きのカントリー・シンガー、スタージル・シンプソンが「変身」できる理由

影響を与えた祖父の存在

2020年に友人のジョン・プラインが逝去するなど悲しい出来事もあったが、ツアーの中断、スコセッシ映画への出演、レコード会社との決別など、シンプソンはあらゆる経験を通じて自分のアイデンティティを取り戻した。おかげで次作の『The Ballad of Dood & Juanita』は曲作りからミキシングまで彼の自由にコントロールでき、1週間で仕上がった。『Dood』は彼の音楽的なルーツへ回帰した作品であると同時に、アルバム全体のテーマも、かつて踏み入れたことのない領域に達した。

オクラホマでの映画撮影の合間にシンプソンは、撮影に参加していた地元の牧場主らと馬に乗ったり放牧の手伝いをするなど、カウボーイの真似事をして過ごした。米中部の広大な草原で、彼はとてもくつろげた。生まれ育った東部ケンタッキーの丘陵とは似ていないが、懐かしさと自由さを感じたという。シンプソンはよく、祖父のローレンス・グレイ・フレイリーを思い出す。「ドゥード(Dood)」と呼ばれた祖父は空軍を退役した後に炭鉱で働き、西部劇を愛した人だった。シンプソンが「ポーポー」と呼ぶ祖父は、彼にカントリー・ミュージックの魅力を伝え、演奏方法も教えた。「俺はとても祖父のようにはなれないが、どうにか近づけるように努力している」とシンプソンは言う。

2017年にこの世を去ったドゥードは、シンプソンの人生や音楽に常に影響を与え続けた。例えば、アルバム『Metamodern Sounds in Country Music』のオープニングMC(ドゥード本人の声)、『High Top Mountain』に収録の「Hero」に描かれた世界、「Welcome to Earth (Pollywog)」の“祖父はよく言っていた/神は漁師だと/今ではその理由が理解できる”という歌詞などに、祖父の影響が見られる。



妻のサラが自分の父親から受け継いだロングライフルの写真を夫に見せると、あるアイデアがシンプソンの心に浮かんできた。思いついたストーリーは西部劇になりそうだ、といつも考えていたが「それは俺のルーツではない。西部劇でなく東部劇を書こう」と思ったという。オクラホマの撮影現場から自宅までの長い道すがら、ジープを運転しながら時間が刻々と過ぎていく。バックミラーにぶら下がるドリームキャッチャーが揺れ、車内にはウィリー・ネルソンの「Red Headed Stranger」が流れる。シンプソンは、祖父母であるドゥードとファニータの生まれた100年前をテーマにしたコンセプトアルバムにしよう、と心に決めた。アパラチア人のリベンジだ。


スタージル・シンプソン(オクラホマ州、2021年8月)(Photo by Rogelio Esparza for Rolling Stone)

Translated by Smokva Tokyo

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