悲劇の死刑因、25年間にわたる「闘争と不条理」

弁護人に翻弄された運命の「第2審」

初めてグロシップの事件を扱った時、ナイト弁護士はいくつかの点に驚いた。ひとつは、マネージャーだったグロシップはいつでも4000ドル以上の金を懐に入れることができたのに、わざわざ金のためにヴァン・トレーズを殺したという点だ。2つ目は、グロシップがスニードの証言だけで収監されたという事実。肝心のスニードはグロシップを名指ししたことで、死刑の代わりに終身刑を言い渡された(ローリングストーン誌は服役中のスニードに手紙を書いたが、返信はなかった)。ナイト弁護士はグロシップの第1審にも衝撃を受けた。たとえば、最初の弁護士ウェイン・フォーンラット氏は死刑求刑裁判の経験がまったくなく、依頼人の無実をろくに調べもせず、司法取引に応じるようグロシップに迫りさえした。

フォーンラット氏自身も準備不足を認めている。以来、彼は弁護士資格を剥奪され、もはや弁護を行なうことはできない。「リチャード・グロシップ被告の代理人を務めたことで、こっぴどく叩かれました。私はヘマをやらかしたんです。さんざんでした」と、『Killing Richard Glossip』の中で本人もこう語っている。

1998年にオクラホマ上訴裁判所が有罪判決を無効としたため、2001年に再審を認められ、グロシップにまたとないチャンスが訪れた。まず公選弁護士のG・リン・バーチ氏が弁護を担当した。『Killing Richard Glossip』によれば、第1審で上訴裁判所を説き伏せて有罪判決を覆すことに成功した同氏は、第2審でも代理人を務める気満々だった。ローリングストーン誌はバーチ氏にコメント取材を要請したが、返答は得られなかった。

まずバーチ氏は、スニードの自供テープを裁判で流すつもりだった。このテープは、第一審では証拠として採用されなかった。だが、バーチ氏は結局グロシップを弁護することはなかった。同弁護士から刑務所で恐喝されたと、スニードが訴えたからだ(バーチ氏は全面的にこれを否定している)。恐喝の証人として、スニードの弁護士ジーナ・ウォーカー氏が証人リストに加えられると、バーチ氏は事件から身を引いた。ウォーカー弁護士は2020年に他界しているため、この話を問いただすことはできない。バーチ氏は、虚偽の非難は彼を事件から外すための策だったと考えている。

代わりにサイラス・リーマン氏とウェイン・ウッドヤード氏がグロシップの弁護を担当した。ナイト弁護士によれば、2人はフォーンラット同様ろくに準備をしなかった。2人は自供テープを証拠に採用してもらおうとすらしなかった。「第2審で唯一弁護と呼べるものがあるとすれば、弁護側がスニードの反対尋問を請求したことぐらいです。彼らはペリー・メイソンのような瞬間になると考えたようですね。彼を証言台に立たせ、追い込んで涙ながらに自供させることができると」とナイト弁護士。「映画では最高のシーンですが、実際にそんなことは起こりません」

Translated by Akiko Kato

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