悲劇の死刑因、25年間にわたる「闘争と不条理」

リチャード・グロシップ死刑因(Photo illustration based on photograph by Janelle Stecklein/Community Newspaper Holdings Inc./AP)

米オクラホマ州刑務所で25年間服役しているリチャード・グロシップ死刑因は、これまでに「death watch」を三度体験している。死刑執行は通常金曜日に行なわれる。死刑が決まった受刑囚はその週の火曜日になると、執行室隣の監房に移され、刑務官と一緒に生活をする。これが「death watch」だ。

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1997年、グロシップがオクラホマ・シティのモーテルのマネージャーとして勤務していた時、モーテルの保守管理人ジャスティン・スニードが、上司のバリー・ヴァン・トレーズをバットで殺害。スニードはグロシップが金銭と仕事を報酬に殺人を強制したと主張。98年、グロシップは第1級殺人罪で有罪判決を受け、死刑を言い渡された。かたやスニードは仮釈放なしの終身刑を言い渡された。グロシップの弁護人たちはスニードがグロシップを巻き込んだのは、死刑判決を逃れて終身刑の判決を得るためだったと主張している。

州によれば、スニードはヴァン・トレーズを殺し(その過程で窓を壊した)、血まみれの服を脱いで、グロシップに仕事の完了を報告しに行った。グロシップはスニードに、ヴァン・トレーズさんの車のフロントシートの下にある金を奪って、車を道向かいの消費者金融に持っていけと命じた。2人は金を山分けし(結局4000ドルしかなかった)、酔っ払い2人が102号室で喧嘩していたので客室掃除ができず、その間自分たちは窓を修復していた、という話をでっち上げた。2人は死体を処理するつもりだったが、ヴァン・テレーズの車が放置されていると消費者金融がホテルに電話したことで、警察沙汰になった。

警察はすぐにグロシップに狙いをつけた。最後に上司を見た時の供述が二転三転したためだ。だがグロシップは2回の尋問で無実を主張し、その日の朝早くスニードが自分のアパートに来てヴァン・トレーズ殺害を告白した、と語った。彼は最初冗談だと思ったという。明らかにこの青年は、奇妙なユーモアのセンスの持ち主だった。一方でスニードは1月14日に逮捕され、殺害を自供――黒幕はグロシップだと名指しした。

スーザン・サランドンからローマ教皇フランシスコまであらゆる人々からグロシップは支持されている。サランドンがローリングストーン誌に語った言葉を借りれば、「リチャード・グロシップの身に起きたことは、我が国の司法制度が不十分であることを如実に物語っています」

自信たっぷりの人柄でグロシップは多くの支持者を獲得したが、同時に敵も作った。例えば、彼を最初に尋問したボブ・ベモ刑事を無駄に怒らせた。「あいつは横柄で、とても生意気な奴です」。2015年の死刑執行日にいたるまで、グロシップの事件を追いかけたジョー・ベリンジャー監督の2017年のドキュメンタリー『Killing Richard Glossip』の中で、ベモ刑事はこう語っている。「あいつは口答えしたり減らず口を叩いては、相手を心底イライラさせるタイプでした。それで時々こっちも『お前いい加減にしろよ』となるんです」

Translated by Akiko Kato

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