―この曲ができたからアルバムが作れたというような、キーになった曲ってありますか?
強いて挙げると、「ドクトリーヌ」と「アイロニーナ」は、このアルバムを構成するなかでも背骨になっている2曲です。
―この2曲はBPMも速くてノリの良い曲ですよね。「ドクトリーヌ」はどんなことを考えて作った曲でしょうか。
“消費”をテーマにしたこのアルバムに入っている時点で、説明不要かなというレベルの歌詞だと思っています。偶然なんですけど、当時の世情に上手く絡めることができたかなと思います。そもそも、流行するものに関してはすべて、時間が経てばあたりまえのように消えていくものなんだなって。今ある苦しいこと、うれしいことは時が経てば流れていくんですけど、でもそういうものをなんでもなかったことにしてほしくはないというか、流してほしくないという気持ちをキチンと出せた曲だと思います。サウンド面で、このときってEDMとかエレクトロスウィングとか、洋楽のポップエレクトロミュージックに傾倒してたので、そこのサウンド感を出したいという気持ちがありました。今まで出した2枚のアルバムって、結構ロック系統なんですよ。今回は自分の中でいったん殻を破って崩したいという気持ちがあって、生のギター、ベースに頼らずに作るというルールを自分に課していたんです。「ドクトリーヌ」はそれを破ることができたんじゃないかなと思うので、自分の中では特別な曲になりました。
―自分に課したものを常に打ち破るのがクリエーターとしてのテーマ?
そうですね。しんどいから絶対やりたくないんですけど、毎回やるんですよね(笑)。めちゃくちゃしんどい気持ちになるんですけど、それをやれたときのアドレナリンがすごいので、そういうところはあるかもしれないです。でも、進化も変化もない作品なんて何も面白くないと思っているので、結果的には良かったかなって。まあ、しんどいんですけどね(笑)。
―そこは自分に課した以上はしょうがないと(笑)。今回、生楽器も使ってはいますよね?
使ってます。完全にガラッと変わったわけじゃなくて、僕はまた違う段階に進んだよっていうことを示すというか、それこそオブリガートという言葉も、次の最高な作品たちの主旋律に対する助奏という意味合いのアルバムという立ち位置が僕の中であったので。“次の煮ル果実”と、“これまでの煮ル果実” がちゃんと混ざっているアルバムになっていると思います。
―アルバムの中で「アランダーノ」のギターが特に好きなのですが、この曲はどちらかというと、“これまでの煮ル果実”ですか?
この曲が一番、今までに近いですね。ギター、ベース、ドラムというシンプルな構成で作っている曲って意外と少なくて。それってすごくプリミティブな音が出ると思うんです。自分の中の原始的な何かが出て、手癖とかもまんべんなく出ますし。この曲は「ドクトリーヌ」の後に作ったこともあって、反動が出て、ギター、ベースをガシガシ弾きたいという気持ちが鬱憤に近い形で音に出たと思います。あと今回は、自分の曲で初めて生ドラムをお願いして叩いてもらって入れたんです。そのおかげで今までの中でもトップクラスにグルーヴが出たと思うので、「アランダーノ」はロック好きな人に聴いてほしいです。僕もロック好きなので、刺さる人には刺さるんじゃないかなって思います。