リトル・シムズが語る、UKラップの傑作をもたらしたディープな自己探求

リトル・シムズ(Photo by Karis Beaumont for Rolling Stone. Styling by Luci Ellis at the Wall Group. Hair by Lauraine Bailey. Makeup by Nibras)

リトル・シムズの最新アルバム『Sometimes I Might Be Introvert』が大きな話題を集めている。本作はUKチャート初登場4位を記録。ここ日本でもSpotifyのバイラルチャート入りを果たし、2021年の年間ベストとの呼び声も高い。この堂々たる傑作はどのようにして生まれたのか。最新インタビューをお届けする。

Zoomにログインした時、リトル・シムズは午後中ずっとロンドンの道端で立ち往生していた。立ち居振る舞いからは判断しかねるが、本人は明らかに気にしていないようだった。「しょうがないね」と言って、車がパンクした経緯を説明した。

本名シンビアツ・アジカウォ、「シンビ」の愛称で親しまれる27歳のラッパーは、まるで密かに悟りを開いたかのように、はっきりとした口調で物静かに語る。音楽へのアプローチも同様だ。9月上旬にリリースされた4枚目のスタジオアルバム『Sometimes I Might Be Introvert』は、全神経を集中して本当の自分を探し続けたアーティストの長年にわたる探究から生まれた作品だ。たかが車のトラブルごときで動じるはずもない。

シムズいわく、パンデミックで自分を見つめる時間が増えたことで自らの傾向について理解を深めることができ、そこからアルバムタイトルが生まれたという。「私はもともと、かなり内向的な人間なの。内向的な人の心を読むのは難しいよね、何を考えているのか、どう感じているかわからないもの」と本人。「でも私にとって、このアルバムが他人を受け入れるきっかけになった」

たとえば、アルバムの中でもとくに印象的な1曲「I Love You I Hate You」。シムズは感情の動きを鮮やかに描き出し、計算された正確さで不在の父への思いと対峙する。“まさか人生最初の傷心の相手が自分の親だなんて”と、曲の終盤に向かって彼女は冷ややかにラップする。非常に個人的でありながら、大勢が共感する感情だ。「父についての歌だけど、同時に父のことだけじゃない」と本人。「私のこと、私の気持ち、このことが私の人生に及ぼした影響について歌っている」



内向的であることを強調しつつも、シムズは他者に対しても驚くほどの洞察力を持っている。この曲が似たような経験をした人々の心に訴える潜在力を本人もよくわかっている。「何らかの形で、この曲に共感できる人は大勢いるはず」

この曲で新たな視点を得た理由として、彼女は自らの成長を挙げている。「1stアルバムには『I Love You I Hate You』みたいな曲は絶対ありえなかったでしょうね。こういうことに向きあえるほど情緒的に成熟していなかったと思う」と本人。「当時リリースしていたら、もっと『クソ野郎』って感じになっていたんじゃないかな」。 今になってようやく、感情に影響を及ぼした過去の経験の複雑さがわかるようになったそうだ。「最近は、ああいうエネルギーも残っているけれど、こう認めている自分がいる。『多分あなたもまだ子供で、幼少期のトラウマや何かを抱えていて、私にはわからないような苦労をしていたのかもしれない。そのせいでいい父親になれなかったのかもね』って」

Translated by Akiko Kato

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