2CELLOSが振り返るチェロで起こした革命、音楽とファンに捧げた10年の軌跡

2CELLOS(Photo by Olaf Heine)

「1960年代にジミ・ヘンドリックスをナマで観た時以来の衝撃」と彼らを大絶賛したのは、エルトン・ジョン御大だった。もちろんジミヘンをナマで観た経験を持つ人は限られているだろうが、恐らく2CELLOSは世界中の多くの人に、同程度のただならないインパクトを与えてきたに相違ない。突如クロアチアから現れたふたりの若きチェリストは、クラシック音楽のスキルと美意識を全開にして、新旧のロックとポップスの名曲を、そのエネルギーや高揚感を損なうことなく再解釈。あうんのケミストリーでラウドに、ファンキーに、精緻にチェロに鳴らし、ロック・ファン/クラシック愛好家を問わず、音楽を愛する世界中の人々を魅了してきた。

そんな異色のデュオが、しばしの充電期間を経て3年ぶり6作目のアルバム『デディケイテッド』を送り出す。これまで作品ごとに少しずつ新しい試みを取り入れて進化してきた彼らだが、エアロスミスからビヨンセに至るまでのヒット曲・代表曲をカバーしている本作では、言わば原点に回帰。改めて、2台のチェロで可能な限り多様でエキサイティングなサウンドを作り出そうという、基本的な課題と正面から向き合っている。ジャンルを超えた音楽への深い愛情と敬意をなみなみと湛えたこのアルバムで、新たなスタートを切るふたりが、キャリアを振り返ってくれた。

ちょうど10年前に活動を始めた2CELLOSの最新アルバム『デディケイテッド』は、いつになくポエティックな、モノクロームのジャケットに包まれている。ふたりのメンバー――ステファン・ハウザーとルカ・スーリッチ――は、どこか“チェロを抱えた旅人たち”といった雰囲気を醸していて。聞けば彼らの背後に延びている道は、過去10年間に自分たちが辿った道筋を象徴しているのだというが、その出発点を辿ると、2011年1月に公開されて世間を騒然とさせた1本の映像に行き着く。マイケル・ジャクソンのファンク・ロック・ソング「スムーズ・クリミナル」をふたりが2台のチェロだけでリメイクする、圧巻のパフォーマンス映像だった。「あれが全ての始まりで、プロを目指して音楽を学ぶ学生だった僕らは、ショウビズの世界に飛び込んだわけだ」と、ステファンは当時の状況を振り返る。



「ふたりとも、何も分かっていないキッズだったよ。こうして10年の月日が過ぎた今も、自分たちが何をやっているのか分かっていないんだけどね(笑)。でもトップからスタートしたんだから、いい始まりだったな。日々練習に打ち込んで、全てを音楽に捧げて、色んな想像を膨らませながら夢を追い続けていたら、最初から大きな扉が開いて、一番高いレベルでスタートを切ったわけだ。あのレベルを維持していくのは本当に大変だったし、スタート地点の自分たちに恥じないように、僕らはそれまで以上にハードワークをこなしてきたんだよ」。

そう、クロアチアのザグレブ大学付属の音楽院で出会い、以後ヨーロッパ各地の名門音楽学校で研鑽を積んで様々なコンクールで好成績を収めていたふたりは、クラシック界での将来を約束されたチェリストだった。しかし、ロックを筆頭に他の音楽ジャンルにも情熱を抱いていたことから、ふと“チェロでロックする”という斬新なコンセプトを思い付いて、デュオでの活動を本格化。「スムーズ・クリミナル」のバイラル・ヒットをきっかけに大手レーベルとの契約を手にし、「ミザルー」からU2の「約束の地」にニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」まで、半世紀分のロックの名曲を独自に解釈した1stアルバム『2CELLOS』(2011年)で、スピーディーに世界デビューを果たすのである。

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