パット・メセニーに「創造性」を学ぶ 次世代とも共鳴する伝説的ギタリストの思想

パット・メセニー(Photo by Jimmy Katz)

ジャズ・ギターの巨匠パット・メセニーは相変わらず精力的だ。ちょうど半年前、メセニーがギターを弾かずに作曲だけをした異色作『Road To the Sun』についての記事を寄稿したばかりだが、彼はまたもや新たなプロジェクトを録音し、ニューアルバム『Side-Eye NYC』として発表された。

僕は幸運なことに、「Side Eye」というプロジェクトが動き出す瞬間を目撃している。2019年1月のブルーノート東京で、鍵盤奏者のジェイムズ・フランシーズ、ドラムのネイト・スミスを交えたステージが5日間にわたって披露された。ベースレスの変則トリオで、共にメセニーがあまり共演してこなかった、2010年代に頭角を現した世代のミュージシャンである。

このとき、特に凄まじかったのがジェイムズ・フランシーズ。彼の周りに並べられたピアノ、複数のシンセ、ハモンドオルガンを自在に弾きこなすのだが、左右の手が完全に別人格のように動く。右手はピアノで、コンテンポラリーなソロをビシッとしたタイム感で弾きながら、左手ではシンセで、レイドバックしたベースラインを弾いたりと、常時2台の鍵盤を操りながら様々な役割を演じた。その超絶的な演奏はメセニーを明らかに刺激していて、その場で彼がワクワクしている様子が客席にも伝わっていた。

ジェイムズはその後、サックス奏者クリス・ポッターの『Circuits』(2019年)に起用されている(こちらもベース不在のトリオ編成)。自身のリーダー作『Flight』(2018年)、『Purest Form』(2021年)も高い評価を得た。

左からマーカス・ギルモア、パット・メセニー、ジェイムズ・フランシーズ

そんなジェイムズの存在を前提に作られたのが、今回のアルバム『Side Eye』だ。ドラムにヴィジェイ・アイヤーからチック・コリア、テイラー・マクファーリンなどに起用されるマーカス・ギルモアが参加し、やはりベースレス・トリオで録音されている。前作『Road To the Sun』では譜面を書いて他のギタリストに演奏させ、2020年の『From This Place』では交響楽団やミシェル・ンデゲオチェロのヴォーカルなどを加えることで、それぞれ緻密に書きあげた楽曲で壮大な物語を描いたメセニーだが、ここでは新曲だけでなく、デビュー作『Bright Size Life』(1976年)からの2曲や、『Letter From Home』(1989年)から「Better Days Ahead」、マイケル・ブレッカー『Time is of the Essence』(1999年)に提供した「TimeLine」、『80/81』(1980年)でも演奏していたオーネット・コールマンのカバー「Turn Around」という変わった選曲も印象的だ。曲によっては、メセニー作品にしてはかなりラフでセッション的だったりもして、この「Side Eye」がこれまでのプロジェクトとは毛色の異なるものだということもわかる。

45年以上のキャリアを築いてきたメセニーは、どうして今も音楽的挑戦を続けるのだろうか。そして、次の世代からどんなインスピレーションを得ているのか。「Side Eye」とジェイムズ・フランシーズ、さらに彼が近年入れ込んでいる新鋭ギタリスト、パスクァーレ・グラッソを切り口にたっぷり語ってもらった。



―「Side Eye」のコンセプトについて教えてください。

メセニー:これまで活動してきて、おかげさまでバンドの中で最年少という立場も経験したし、中堅も経験してきて、最近では最年長になることも少なくない。いつもそうとは限らないけどね。今でもプレイするロイ・ヘインズは94歳なわけで。つまり、ジャズという音楽ジャンルにおいて、年齢差はあまり関係ないんだ。というのも、誰かが「1、2、1、2、3、4」とカウントを取った瞬間、みんな平等だ。過去に何を演奏してきたかとか、将来何を演奏するかは関係ない。その瞬間が重要なんだ。そうは言いつつも、私が長年活動してきたことは事実で、若い頃にたくさん聴き、尊敬していた多くのミュージシャンたちと共演できて非常に幸運だった。だから今度は私自身がそういう機会を与える側になるという意味で、NYで活動する若手ミュージシャンで注目している人たちに声をかけ、私のアパートに来てもらってジャムセッションを行なってきた。どれも尊敬している若手ばかりで、彼らに向けた曲を書きたいとも思った。そういうことができる受け皿を作って、変幻自在でメンバーが入れ替わりつつ、一つの大きな傘の下に収まっている、そんなプロジェクトにしたいと思ったんだ。

Translated by Yuriko Banno

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