チャーチズが語る未来志向のアルバム、「恐怖」を巡る物語、フェミニズムの精神

パンデミックと「死の恐怖」

ー先程、「閉塞感に充ちた世界観を立ち上げる」というのが作品のコンセプトとしてあったというお話がありましたが、コロナ禍での経験はそのアイディアに影響を与えているんでしょうか?

ローレン:うーん、そうですね……『Screen Violence』はパンデミックそのものを描こうとした作品ではないんですけど、歌詞自体はその最中に書いているので、影響はもちろん現れてますよね。これだけネガティヴなテーマを踏み込んで書けたものも、先行きが見えない状況の中で、これまでにないくらい人の心が敏感で繊細になっているからだと思います。

最近、マーティンと私は毎週のように死の恐怖について話してるんですけど……そんなことコロナ以前はまったく話したことなかったんですよ。10年以上、一緒にバンド活動してきて、深い話も散々してるのに「死」については話したことがなかった。でも、今は普通にそういうことについて話していて……面白いっていうか、なんか不思議ですよね(笑)。

アルバム制作の最中もーあれは「Asking for a Friend」を作り終わったあとだったと思うんですけどーバンドとチームのみんなで深夜に「そうだよねー。みんな死ぬの怖いよねー」みたいな暗い会話をZoomでしてたんですよ。そしたら、みんな急にふと我に返って「あれ、これって、サポート・グループ(同じ問題を抱えた人々が悩みを共有し、解決に向けてお互いを援助するグループ活動)みたいじゃない? 私たち、大丈夫かな?」ってなって(笑)。でも「いや、そうじゃない。曲作りの一環だから大丈夫!」って、みんなその時はとりあえず流したんですけど……。



ーでも、創作活動にはある種のセラピー的な側面もありますし。そう的はずれな例えでもないんじゃ……。

ローレン:いや、でも、やっぱりその時、みんななんでもないふりして「流した」っていうのが結構大事なことだと私は思っていて。「流す」ことって人生において、すごく必要なことだと思うんですよ。

さっき私、猫を飼ってるって言いましたよね。時々、猫が太陽の光の中で気持ちよさそうにごろごろしてるのとかみてると「何も知らなくて、幸せそうだなぁ」って思うんですよね。彼女は「死」という概念はわかってるんです。芝刈り機がくると「うわっ、殺される!」って逃げるから(笑)。確実に「死」を恐れてはいるんだけど……彼女と「死」の関係はそれぐらいが関の山なんですよね。ある意味、シンプルで筋が通っていて、いいなぁって思う。

多分、私たちは「死」というものを本当は扱いきれないんだと思うんです。だから毎日、余計なことを考えないように、なんやかんやと忙しくして流して誤魔化してるんです、きっと。……なんかすごく暗い話になっちゃった、ごめんなさい(笑)。

ーいえいえ、作品のテーマに関わる重要なお話だったと思います。ドハーティさんは、コロナ禍がこの作品に与えた影響については、どのように考えてらっしゃいますか? 今作の制作ではメンバーのイアン・クックさんとはリモートで制作をされたそうですが。

マーティン:そうですね。影響はもちろんありました。イアンが渡航制限でロサンゼルスに来ることができなかったのは、たしかに今回のアルバムの制作プロセスに大きな影響を与えています。いかにして物理的な距離を越えて、イアンと密にコミュニケーションをとりながら一緒に作品を創り上げるかということを常に考えていました。

実際、レコーディングのプロセスも以前とは変わったと思います。今までは「このギターの音、いいじゃん! 録音しよ! よし、できたね、じゃ次!」みたいなノリで進めてたんですけど、ロックダウンで家にいることが多くなると、TVを観るか、音楽を作るかぐらいしかやることがないので。今までそんなに時間をかけていなかったことに向き合ってみるようになりました。改めて、ギターのサウンドを追求したり、エフェクターを組んでみたり、あるいはシンセサイザーやスタジオの機器の新しい使い方を研究してみたり……そうやってじっくりと音楽に取り組んでいると、ワクワクするような新しいアイディアがどんどん浮かんできたんです。

ー音楽的には充実した作業を行うことができたというわけですね。

マーティン:はい。ただ、やっぱりローレンが言うように、このアルバムはパンデミックそのものがテーマのアルバムでは無いと思うんですね。多くの芸術家たちが今、このコロナ禍でのエモーショナルな体験を反映した作品を作っていますが、それはある意味で「レンズ」のようなもので、それぞれが独自のレンズを通して、この奇妙な時代を記録しているわけです。『Screen Violence』も、そういう「レンズ」の一つだと思います。

以前、私たちは『Death Stranding』というゲームのために曲を書き下ろしましたが、偉大なる天才・小島秀夫監督がコロナ禍以前に作り出したこの作品は、私たちが今陥っている状況を予見していました。力強く美しいタッチで描かれたこの「つながり」と「断絶」の物語は、現実世界の我々にとって、今こそリアルで切実なものになっていると思います。直接的なコミュニケーションが断たれた世界で、我々はどうやって一緒にモノを創るのか? どのようにして、また繋がり合うべきなのかーコロナ禍における様々な困難を辛抱強く乗り越えて、『Screen Violence』が完成したことは一つの事実としてあります。

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