マニック・ストリート・プリーチャーズがUKロック復興に与えた影響、30年選手の新たな冒険

メロディアスな「14作目」の全容

このようにここ10年ほどは鳴りを潜めていたものの、近年復活の兆しを見せ始めている伝統的なUKロックだが、そのスタイルを堅持しながら、作品ごとに違った一面を打ち出していくのがマニックスだ。さらりと書いてしまったが、これはまったくもって容易なことではない。しかもだいたい3年おき、早いときには1年でアルバムが届けられる。約30年間にわたって音楽性がぶれることなく、冒険を続けながら納得させられるアルバムを作り続けているのは稀有なことであり、それはニュー・アルバム『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』でも不変だ。

新作のレコーディングは2020年から2021年にかけての冬に地元ウェールズにある世界的に有名なロックフィールドと、同じくウェールズ南部のバンドが所有するスタジオで行われた。プロデュースはマニックスと共にキャリアを積んできた、バンドのことを誰よりも知るデイヴ・エリンガ。ミキシングはブロッサムズやアーロ・パークス、フランク・オーシャンら今の音作りに熟知したジュリア・カミングが手がけている。

1曲目のタイトルは「スティル・スノーイング・イン・サッポロ」。曲のラストには日本人男性のダイアローグが挿入されている。また、前作『レジスタンス・イズ・フュータイル』(無益な抵抗という意味)のアートワークに、彼らは滅びゆく侍のカラーポートレートを用いた。そのように思い返せばマニックスにとってデビュー時から日本は特別な場所であり、ひとかたならぬ思いを抱き続けてきたことを再認識させる曲からアルバムは幕を開ける。

2曲目の「オーウェリアン」はリードトラックで、響きの良いピアノから始まる。メンバーは「アバ、ジ・アソシエイツのアラン・ランキンによる威厳のあるキーボード、トーク・トークの『イッツ・マイ・ライフ』にリンジー・バッキンガムのギター・ソロを入れたようなもの」とコメントしているが、確かにその一音一音に耳を傾けてみると彼らが言いたいことがわかる。何でも今回のアルバムではギターではなく、ピアノで曲を着想していった初めての作品になったそうだ。それだけにいつものエモーショナルなギターに取って代わって、ピアノがその役割を果たしているが、むしろギターよりも胸に迫るシーンが幾度も訪れる。そのピアノとウォール・オブ・サウンド的なアプローチな「クエスト・フォー・エンシエント・カラー」はまさにその好例と言っていいだろう。



また、前作では同郷のキャサリン・アン・デイヴィスのプロジェクトであるジ・アンコレスをフィーチャーしていたが、今作でもサンフラワー・ビーンのジュリア・カミングとデュエット。デビュー作でのトレイシー・ローズを筆頭に、女性ヴォーカルを迎えるのはマニックスのお家芸とも言うべき恒例となっており、「ザ・シークレット・ヒー・ハド・ミスト」でのジュリアの歌声も曲にごく自然に馴染んでいる。そしてフォーク調の「ブランク・ダイアリー・エントリー」ではマーク・ラネガンがゲスト・ヴォーカルとして参加。マニックスの楽曲であの渋い声を聴かせてくれることが感慨深い。

メロディアスなピアノが印象的なだけに、前作のようなほとばしる激情は控えめに感じるかもしれないが、やはり根っこの部分は同じ。彼らが感じたことを演奏に託して伝えてる。そんなシンプルな繰り返しを30年にわたって続けてきたウェールズの偉大なバンドの背中を、これからの若手バンドたちが追いかけていく。彼らがマニックスをどう見ているのか、いつの日か機会があれば聞いてみたい。『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』を聴いて、そんな衝動にもかられた。






マニック・ストリート・プリーチャーズ
『ジ・ウルトラ・ヴィヴィッド・ラメント』
発売中

CD
①完全生産限定盤 トール・サイズ・ハードカバー紙ジャケ、CD2枚組
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録。
価格:5,280円(税込)


②通常盤
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録
価格:2,640円(税込)

CD購入&再生リンク:
https://lnk.to/ManicsTheUltraVividLamentRJ

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