Emerald・中野陽介と手島将彦が語る、音楽家として追求する「心豊かでいるための音楽」

中野:僕は何かに間に合わせるために曲を作ることがどうしてもできなくて。この曲が10年後に聴いてもかっこいいって思える曲ができた時に、一番心が落ち着くんです。僕はこの業界で生き残りたいじゃなくて、曲を残すことにこだわりがあって、それができた時は本当に心が落ち着いて嬉しくなります。

手島:何に価値を置くのかですよね。ビジネスとしてやるのであればちゃんとビジネスとしてやる方がいいし、ヒットチャート1位を目指すのもいいと思うんです。そこでも、やはり何が自分にとって幸せなのかを解像度高めて見ていくことが大事だと思います。他人が提示したものだけで判断しないというか。

中野:そうですよね。Emeraldは、それを見失わずにもっと広げて伝えていくことができないか? というある種社会実験みたいなバンドとも言えます。だけど、周りを見ていて、バンドである必要は年々なくなっていくなあって思うんです。でもEmeraldはバンドだから、僕はバンドの新しい価値とかやり方を表現できるといいなと思うんです。僕は皆で持ち寄ったものを皆でかっこよくして、色々なレイヤーが詰まった豊かな音楽を作りたくて。それは一人で作れたじゃなくて、皆で作れてすげえだろ、こんな生き方豊かだろって言いたいんです。全員がアイディアを持ち寄ってくるし、全員がレイヤーの中にいる。万華鏡みたいなサイケな音がEmeraldみたいな都市型のバンドでも鳴ったりするのが楽しくてかっこよくて。天然記念物みたいなバンドじゃないかと思ってます。僕自身も心豊かな状態で仲間もいて、家族もいて、かといって大満足でのらりくらりしているわけじゃなくて、乾いてる部分や悔しい部分はもちろんあるし。いい状態で居続けるために音楽をやるという生き方もある。この面白さをもっと伝えたいんですよね。



手島:話を聞いていながら、中野さん自体の本質は何も変わってないのだろうなと思いました。丸くなったわけじゃないけど、刃物の扱い方が上手くなったような(笑)。色々な人がいて、一人でなんでもできる人はやればいいと思うんですけど、でも皆がそうじゃない。それぞれ特性があって、得意なことや不得意なこともあるし。あとは、やっぱり他の人との関わり方って大事だと思うんですよ。本でも書いたんですけど、自立するって全部一人でやるんじゃなくて、頼れるようになるということでもあって。それがバンドというものであればすごく意義があると思います。

中野:今日本で流行っているユニットやソロプロジェクト的な音楽はクラスのヒーローみたいな感覚のものが多いと思っていて。枠の外側に飛び出していく多様なレイヤーをむしろ排除することによって一体感を生むというのが、特に歌モノで多いと思うんです。色々な人のレイヤーが絡んで、この音が鳴って、大きい場所で演奏してるっていうゴージャス感とはある種別ベクトルのものかなと思いますね。でも、僕は今流行りのこの音楽のスタイルについて、フォークミュージックだと思って聴いていると納得できることは多いです。

手島:ほうほう。

Rolling Stone Japan 編集部

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