『サマー・オブ・ソウル』映画評 「黒いウッドストック」の全貌に迫った傑作ライブ映画

BLM以降に捉え直す、1969年のブラック・パワー

黒人の権利に対する意識が向上し、多くのリーダーたちの命が失われた激動の60年代の終わりに、彼らの音楽はリアルに響いた。モータウン、ブルース、R&B、アフロ・ラテン、賛美歌など、当時のブラックミュージックは愛と癒し、精神性、欲求、活気、そして怒りに満ちていた。その魅力を知り尽くしたクエストラヴは、強欲さと差別によって黙殺されてきたこれらの映像を蘇らせ、後世に伝えようとした。一流のミュージシャンでありながら、最近ではドキュメンタリー制作の分野でも才能を発揮している彼は当初、8週間に渡って行われた同イベントのハイライトを集めた、いわばグレイテスト・ヒッツ的な映像作品を作るつもりだったと話している。


ニーナ・シモン (C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

本作がより野心的な内容となったのは、2020年の夏にクエストラヴが世間と同じようにフラストレーションを抱えていたことと無関係ではないはずだ。『サマー・オブ・ソウル』ではハーレム・カルチャラル・フェスティバルの盛り上がりのピークを示すストーリーだけでなく、欠かすことのできない時代背景も描かれている。また本作は、ブラック・パワーとブラック・ビューティーの時代だった60年代末に、彼らの住む町が誇った文化の豊かさを体現している。その一方で、今作では暴力や不安、暴動、不安定な情勢、コミュニティを蝕んでいたドラッグの蔓延、そして非暴力を訴える反対運動の参加者と、自己防衛のためならどんな手段も厭わない人々の分断も描かれている。「白人中心のアメリカの醜悪さ」と「ネオ・スーパー・ブラックネス」の対比は、作品の全編にわたって見られる。また同イベントの別の参加者の言葉を借りるならば、「そのコンサートは、アスファルトを突き破って咲いたバラのようだった」。当時の人々が置かれていた状況を考慮すれば、大勢の人間がひとつになるその光景はより感動的で、喜びに満ちているように感じられる。彼ら彼女らは単なる市民ではなく、多くの試練をくぐり抜けて生き残った人々なのだ。本作は当時の人々のサウンドトラックであると同時に、彼らがようやく勝ち取ったものを祝福してみせる。

本作では当時の人々と、現代に生きるアフリカン・アメリカンが直面している問題の直接的な対比は見られない。クエストラヴが今作でファーガソンやBLMに言及しなかったのは、そうしなくても人々が接点に気づくことを確信していたからだろう(唯一のリファレンスは『あるいは、革命がテレビ放映されなかった時』という副題だ)。『サマー・オブ・ソウル』は出演者たちだけでなく、等しく重要なオーディエンスへのトリビュートであり、そのコンセプトが本作を単なるコンサートフィルムではなく、優れたドキュメンタリー作品として成立させている。当時のパフォーマンス映像を観たある参加者は、それが自分の妄想だったのではないかと考えたこともあったと語った。「俺の頭がおかしいわけじゃないってやっと分かった」。彼だけでなく、複数の世代に受け継がれてきたその記憶を、クエストラヴは今作で補完してみせた。それは真に賞賛されるべき行為であり、その結果として生み出された本作はまぎれもない傑作だ。

From Rolling Stone US.




「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」
原題:Summer of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised)
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー/B.B.キング/フィフス・ディメンション/ステイプル・シンガーズ/マヘリア・ジャクソン/ハービー・マン/デイヴィッド・ラフィン/グラディス・ナイト&ザ・ピップス/スライ&ザ・ファミリー・ストーン/モンゴ・サンタマリア/ソニー・シャーロック/アビー・リンカーン/マックス・ローチ/ヒュー・マセケラ/ニーナ・シモン/ほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン(2021年 アメリカ 118分)
2021年8月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開!
(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:https://searchlightpictures.jp/

Translated by Masaaki Yoshida

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