『サマー・オブ・ソウル』映画評 「黒いウッドストック」の全貌に迫った傑作ライブ映画

スライ・ストーン (C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

クエストラヴが監督を務めた映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』。1969年開催の「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」における伝説的ライブ映像の数々を収録した本作は、まぎれもない音楽ドキュメンタリーの傑作だ。米ローリングストーン誌の作品レビューをお届けする。

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1969年夏、ある日曜の朝にハーレムのマウント・モリス公園に行くと大勢の人で賑わっていた。フード販売の出店、公園内を駆け回る子供たち、バーベキューを楽しむ家族、日光浴をしている若者たちなど、そこは笑顔と喜びを感じさせる音に満ちていた。今から数十年前の当時を知る人間によると、そこでは「Afro Sheenとチキンの入り混じった匂い」が漂っていたという。芝生の上に設置されたステージの様子を見ようと、木に登る人も少なくなかった。同地域での野外イベント企画担当として、数年前からニューヨーク市のParks Departmentに勤めていた実力者のトニー・ローレンスは、ステージ上で次の出演者を紹介している。毎年恒例となっていた無料コンサート「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」の司会を務めていた彼は、3度目の開催を迎えていたその日、いつもの快活な声を響かせていた。

次に登場するのはコメディアン(マムズ・メイブリー、ウィリー・タイラー&レスター)、ゴスペルのグループ(プロフェッサー・ハーマン&ザ・ヴォイス・オブ・フェイス)、はたまたB.B.キングやフィフス・ディメンション、マハリア・ジャクソン、モンゴ・サンタマリア、スティーヴィー・ワンダー、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンのような著名アーティスト。そういった一流アクトを招いていた同フェスティバルは、アップタウン周辺に住む人々にとって重要なエンターテインメントであり、エンパワーメントの源となっていた。「辺り一帯が黒人で埋め尽くされていた」と語ったある参加者の声には驚きとプライド、そして強いコミュニティ意識が感じ取れる。



アミール・”クエストラヴ”・トンプソンが監督を務めた『サマー・オブ・ソウル』は、豪華ラインナップが集結した伝説のイベントの全貌を明らかにしてみせる。「黒いウッドストック」というニックネームを考えたのは、同イベントを映像として記録する役目を務めたハル・トゥルチンだ。撮影班は出演者がステージに上がるたびにカメラを回し(大掛かりな照明を用意できなかったため、カメラは太陽と向き合う位置に設置しなくてはならなかったという)、歌ったり踊ったりと、思い思いに楽しむオーディエンスの様子を捉えていた。同年の夏、そこから約100マイル離れたニューヨーク州北部の農場で開催された、愛と平和を掲げた3日間の音楽の祭典を描いたドキュメンタリー映画はヒットを記録していた。トゥルチンは自身のプロジェクトを同フェスティバルと並べて語ることで売り込もうとしたが、誰も興味を示さなかった。「ウッドストック」の前に冠された形容詞の部分が、マーケティングにおいてネックになると見なされたからだ。

そういった経緯で、マウント・モリス公園で行われた圧倒的なライブパフォーマンスの数々を収録したテープは、そのクオリティに驚いたザ・ルーツのドラマーであるクエストラヴによって発掘されるまで、トゥルチンの自宅で50年近くに渡って眠っていた。このプロジェクトがどこかのソウルミュージック研究家によって先導されていたとしても、『サマー・オブ・ソウル』は一級品のコンサートムービーとして認知されていただろう。本作には、当時キャリアのピークにあった複数のアーティストやその他による、ポジティブなエネルギーに満ちたライブ映像が多数収録されている。当時19歳だったスティーヴィー・ワンダーはキーボードの前で飛び跳ねたかと思いきや、圧巻のドラムソロを披露する。ニーナ・シモンは「Backlash Blues」をボクシングの試合に例え、テンプテーションズを脱退したばかりだったデヴィッド・ラフィンは、語尾を20秒間持続させた直後にソウル魂前回のシャウトを炸裂させる。当時キャリアの絶頂期にあったスライと複数の人種で構成されたバンドは、ファンクという言葉が動詞でもあることを思い出させてくれる。グラディス・ナイトとその機敏な動きは、ザ・ピップスの振り付けを一新した。マハリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズは、現場を教会へと変貌させていた。

Translated by Masaaki Yoshida

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