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さて70分のプレイリストの残りだが、通好みを選んでやろうとか、寝ないで考えるなんてことはしなくてもいい。ポップへの共感を歌い上げた「Somebody Got Murdered」もあるし、ジャズ畑のモーズ・アリソンが手がけたドタバタのブギウギ「Look Here」もある。ジャマイカ・レゲエの祝い手であるマイキー・ドレッドは「One More Time」と「Living in Fame」で、ストラマーが“なんてこった、マイキー”と混ぜ返すまで延々と怪気炎を吐き出している。「The Sound of the Sinners」はゴスペルの装いをまとった風刺で、エルヴィス・コステロがクラッシュの中でも一番の名曲として挙げている。(ホワイト・ストライプスの)「Hotel Yorba」を踏まえると、ジャック・ホワイトもたぶん同じことを言うだろう。
「Silicone on Sapphire」は、コンピューターへの執着をダブを駆使しながら喚き散らす。TRS-80時代の『キッドA』だ。「Career Opportunities」では鍵盤奏者ミッキー・ギャラガーの子息たちをシンガーに迎え、パンクを鳴らしたバンド初期の生々しい名曲を、子供向けの歌へと見事にモデルチェンジを果たしている。よちよち歩きの域に止まりそうな彼らの声が、同曲のおかしみを増しているのだ(ギャラガーのお嬢さんは本作で、子守唄ヴァージョンの「The Guns of Brixton」も披露している)。さらに「Midnight Log」や「Something About England」、「If Music Could Talk」辺りを加えてもいい。ひょっとして今、「胃が締め上げられるようなカントリーっぽいヴァイオリンのホーダウンを聴きたい気分なんだ」と仰っただろうか? ならば「Lose This Skin」がお手頃だ。アルバムの中でも出来損ない中の出来損ないだけれど、この曲はその出来損ないっぷりをこれでもかとでもばかりに振りかざしている。
『サンディニスタ!』は自信にあふれ、かつ「町で最後の無法者」的な蛮勇にも満ちていた。これが数年後には分裂するバンドの音だとは到底考えられない。クラッシュはしかし、ちゃんとしたアルバムをあと一枚しか作れなかった。『コンバット・ロック』だ。同作は隅々まで『サンディニスタ!』と肩を並べるほど芸術的で、しかも懸命なことに、しっかりポップのパッケージとして成立していた。
その後ストラマーは、まずトッパー・ヒードンを解雇し、次はミック・ジョーンズまで追い出してしまった。1988年、彼はLAタイムズにこう告白している。
「俺は自分こそがクラッシュなのだと証明したかった。ミックじゃねえぞってな。今は俺だって、間抜け野郎だったとわかっているよ。特定の誰かではなく、俺たち4人の間に起きたケミストリーが凄かったと気付かされたんだ」
そのケミストリーは、今なお『サンディニスタ!』から喧しくも鮮明に聴こえている。だからこそ40年の時を経てなお新鮮だし示唆に富んで響くのだ。ここにはクラッシュが手を取り合い、未来への大きな跳躍を勢いよく遂げようとしたサウンドが鳴っている。
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From Rolling Stone US.Translated by Takuya Asakura
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