ザ・クラッシュ『サンディニスタ!』 散漫かつ過剰な3枚組が大傑作となった理由

ザ・クラッシュ(Photo by Lisa Haun/Michael Ochs Archives/Getty Images)


アメリカにおける『サンディニスタ!』人気

『サンディニスタ!』はジョン・レノンの殺害後、最初に登場してきた重要作でもあった。彼のロック革命的精神が健在であるという「希望のしるし」として受け止めた人々もいた。それゆえ本作は、1981年にもっとも称賛された一枚となった。ローリングストーン誌のジョン・ピッカレラは、満点五つ星をつけた本作のレビューでこんなふうに書いている。

「ここまでビッグな、もしくは広範なアルバムというのはそうあるものではない。前作『ロンドン・コーリング』のマチズモを抑えたうえで、『サンディニスタ!』はより多くを内包しようと懸命に試みている」

もはやクラッシュは、自分たちのアーティスティックな「衒い」を隠そうとはしていなかった。ピッカレラがブライアン・イーノになぞらえ、彼の作品に引っかけて “虎の山を越えてしまった(taking Tiger Mountain )みたいだ”と評したように。



本国イギリスでは、『サンディニスタ!』は1980年12月に発売された。レコード会社の側に、クリスマス商戦にチャートのトップを獲ってくれれば、といった目論みがあったことは明らかだ。しかし事実はそうならなかった。アバにバーブラ・ストライザント、バリー・マニロウにポリスといった同年の特大ヒット作の陰に隠れてしまう形となったのだ。

しかしアメリカでは、本作は1981年のアルバムとして扱われた。同年を代表する作品とされる場面もある。チャートには2月初頭に登場し、最高で24位を記録した。さらにヴィレッジ・ヴォイス誌「Pazz & Jop」における批評家らの投票企画では1位を獲得している。今や古典となったXの『ワイルド・ギフト』、エルヴィス・コステロ『トラスト』、ローリング・ストーンズ『刺青の男』といった辺りを抑えた形だ(ついでに同企画の残りのトップ10を挙げておくと、リッキー・リー・ジョーンズ、スクイーズ、トム・ヴァーレイン、プリンス、リック・ジェームズ、ゴーゴーズが選ばれていた。どれもが似ているものの見つからない、偉大なる十枚の金字塔と言えそうだ)。ローリングストーン誌の読者投票では、ストーンズの後塵を拝する形で最優秀アルバムの2位につけた。投票数は606対162ではあったけれど、REOスピードワゴンとスティーヴィー・ニックスには競り勝っていた。

僕の高校では昼休みの論争がまるまる一年も続いた。『サンディニスタ!』と『ロンドン・コーリング』のどちらが優れているかというものだ。振り返ればファン同士でそんな議論に興じていたというのも、どこか捩れた事態ではある。だってこの時期にはもうすでに、世界は『ロンドン・コーリング』をある種の聖典と見做す動きに載っけられて久しかったのだ。

当時と同様、僕は今でも『サンディニスタ!』派だ。いや、確かに本作は過剰だし常軌を逸してもいる。収録時間だけとっても、彼らがそれまでに発表してきたアルバムすべてを合わせたものより長い。

だがしかし、大体70分くらい、すなわちCDサイズのプレイリストにこいつを編集しなおす作業を思い描いてみてほしい。やはり冒頭は「The Magnificent Seven」になるだろう。ストラマーがはしゃいだような勝手気侭な反資本主義ラップで高らかに開幕を告げる。“ソクラテスとミルハウス・ニクソンが/同じようにキッチンを通り抜けていく”。 だいたい5分過ぎくらいの箇所では彼はこう呟いている。“クソ長えな、そうでもねえか?”。いやいやジョー、これはどちらかといえば簡潔な方の曲だと思うよ?

同曲はそのまま「Hitsville U.K.」へと雪崩込む。明らかにモータウンの影響を受けたヴィブラフォンが、音楽業界にまつわるあれこれを巡って飛び跳ねる。しかしこの曲は同時に、いかにも嘘っぽいポップソングでさえ本物の感情を呼び起こすことができるのだという賛歌(オード)でもある。ここではミック・ジョーンズが、当時の恋人だったアメリカ人のエレン・フォーリーと一緒にヴォーカルを取っている。ミートローフの名曲「Paradise by the Dashboard Light」に参加したことで有名な女性である。そう、あの曲で“ここで止めてっ、今すぐ知りたいのよ”と叫んでいるのが彼女なのだ。1981年にクラッシュがミートローフの女神にマイクを握らせるなんて、まるっきり現実離れした事態な訳だが、これが見事にハマっている。ちなみに二人の関係が終焉を迎えたあと、ミックが彼女のことを書いた曲が「Should I Stay or Should I Go?」(次作『コンバット・ロック』収録)だったりする。

Translated by Takuya Asakura

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