1100万円で落札のチキンナゲット、「児童人身売買」陰謀論の引き金に

チキンナゲット(Photo by Polizna/Ebay.com)

ここ数カ月もちきりだったBTSとマクドナルドのコラボレーション、そこから派生したレアな『Among Us』型ナゲット。そんな話題も極右グループが取り上げると大変なことになってしまう。

【画像を見る】10万ドル(約1100万円)で落札されたチキンナゲットとは?

去る5月、BTSはマクドナルドと業務提携を結び、MサイズのコカコーラとMサイズのフライドポテト、スイートチリとケイジャンの2種類のソースに10個入りチキンマックナゲット、という限定コラボメニューを販売した。限定メニューは瞬時に完売し、ソーシャルメディア上の起業家はグループの多大な人気にあやかって、限定メニューの一部アイテムをインターネット上で販売した。とくにその中でも、マルチプレイヤー型オンラインゲーム『Among Us』に登場する「クルー」に似た形のナゲットは、eBayでおよそ10万ドルで取引された。各種ニュースメディアは「ミーム経済のバカバカしさの一例」と言って、この話に群がった。

しかし、明らかにこの話を理解できない者が1人いた。QアノンやQアノンまがいの陰謀論を投稿することで知られるTikTokユーザーだ。彼女は7月、eBayでBTSチキンナゲットを販売する人々が悪質な意図を持っている、と非難する動画を投稿した。「人身売買らしきことが行われていると思う」と言って、そのユーザーは各種チキンナゲットの出品画像のスクリーンショットを投稿した。「これが拡散されて、話題になるのは無理もない。だってどこか変だもの」と彼女は結論づけた。「“レアもの”ナゲットが1万4000ドル? これは怪しいわ」

eBayに出品されているチキンナゲットは児童人身売買の隠れ蓑だ、という考えは、見るからにばかげている。だが、コメントを寄せている大勢が、本当だと信じ込んでいるようだ。「こうした懸念には根拠があると信じる人が大勢いるようです。実際おかしな形をした食物に法外な値段をつけるケースが多いにもかかわらず、金額が高すぎるからきっと子供が売買されているに違いない、と信じているらしいのです」と言うのは、作家で活動家のマヤ・モレナ氏。彼女も問題の動画についてツイートを投稿している(たしかに、つい最近も13歳の少女が「ぷっくり膨らんだ」ドリトスを見つけたと言ってTikTokに投稿、報奨金として1万5000ドルを受け取った)。


16万9000件以上も閲覧され、2万6800のいいねを獲得したチキンナゲット人身売買説を唱える動画は、やがて性的人身売買のデマを暴く「@bloodbathbey0nd」ことジェシカ・ディーンさんと一騎打ちすることになった。ディーンさんいわく、彼女や他のTikTokユーザーはこの動画が誤情報を拡散しているとして通報したが、無駄骨に終わった。この手の動画がある一定の閲覧回数を超えると、プラットフォーム側はめったに削除しないという。「動画が1万いいねを超えていたら削除するよう働きかけますが、望みは薄いですね」と本人(ローリングストーン誌が問い合わせた後、TikTokは同社のコミュニティガイドラインに違反しているとして、問題の動画を削除した)。

ことの発端となったTikTok動画も含め、eBayに出品されたチキンナゲットの大半も削除された。『Among Us』ナゲットをオークションにかけたeBay出品者(現在の最高入札額は1000ドル)の「@topnotchlabels」がローリングストーン誌に語ったところでは、性的人身売買を主張するメッセージをいくつか受け取り、中には「疑惑や懸念」をeBayに通告すると言った者もいたそうだ。「たしかに興味深いデマですね」と「@topnotchlabels」は語る。「皆さんには、見聞きしたものすべてを信用しないでください、と言いたいです。とくにTikTokからの情報はね」

極右陰謀論を拡散することで有名な別のTikTokクリエイターは2万5000人ものフォロアー数を誇っているが、彼女もまたこうした説を唱える動画を投稿した。「皆さんが児童人身売買に気付くころには、もはや秘密裡の取引ではなくなっています」と、動画の最後で彼女はこう言い放った。この動画はTikTokから削除されたものの、彼女は別の動画を投稿し、スライスしたピザの形をしたポテトチップ(入札額2万ドル)やおしっこをする犬の形をしたチートス(入札額1万8000ドル)など、他のeBay出品に対しても同様の説を主張した。「今日、かつてないほど多くの人が奴隷になっています」と彼女は自信たっぷりに主張する。「まだ怒りに駆られませんか?」

Translated by Akiko Kato

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