「ロックは死なない」と叫んだ2021年の最重要バンド、マネスキンを徹底解剖

マネスキンが描く新しい未来

マネスキンの音楽は、現在のところの最新作である『Teatro D’Ira Vol. I』でひとつの到達点に達している。ここでの洗練と成熟があってこそ、ユーロビジョンでの優勝とその後の成功があるのはまちがいない。

前作の『Il Ballo Della Vita』は意欲作ではあるけれど、過剰に折衷主義的で、とっ散らかっていて、オーバープロデュース気味だ。中途半端にシンセサイザーが入っていたり、トラップビートやダンスホールを取り入れた曲があったり、クリーンな音像やミキシングはメインストリームを意識しすぎていたりと、バンドの魅力を減じてしまっている点が目立つ。もっと前の『Chosen』は粗削りで、「Xファクター」でのパフォーマンスをそのままスタジオで録り直した、という性格が強い。

どちらもドキュメントとしては興味深い。けれども、アルバムとして、作品として、マネスキンというバンドの魅力をじゅうぶんに伝えているとは言いがたい。その点においても、『Teatro D’Ira Vol. I』は、これまでの作品とはまったくちがう。きっと、ロンドンでの経験も活きているのだろう。ライブレコーディングによって4人の演奏を捉え、コンサートにおけるバンドの勢いを反映させた同作は、とてもヘヴィでグルーヴィでネイキッドだ。



クリーントーンがメインで軽かったギターの音色は、随分とメタリックでヘヴィになっているし、以前にも増して太さを増したベースとの絡み合いで音像のボトムを支配している。ドラムの質感は生々しく、いきいきとした熱気を伝えている。全体的な音像は未整理で荒々しいけれど、厚みのある低域によって、サブベースに慣れたリスナーにも受け入れられる現代的な響きを獲得している(クラシックロックの遺産を利用しながら、モダンなヘヴィネスとグルーヴを追求したアークティック・モンキーズの『AM』とも共通点を感じる音だ)。

『Teatro D’Ira Vol. I』で特に研ぎ澄まされているのは、バンドのリズム&グルーヴだ。タメの効いたビートと、ギターとベースがユニゾンしたシンプルなリフの反復が生むグルーヴは、ひたすらに力強い。このリズム&グルーヴは、上述のとおりポストパンクやファンク、R&Bもルーツにあるからこそ生まれているはず。聴いていて気持ちよくて、踊れる、ノれる。単純なようでとても重要な要素が、『Teatro D’Ira Vol. I』を魅力的なロックレコードにしている。



つまるところ、マネスキンには、人々を強く引きつける理由がこれだけある。ワンヒットワンダーなどではまったくないことは明白で、次作の『Teatro D’Ira Vol. II』を年内にリリースする予定もあるというから、2021年を代表するバンドになることはまちがいない。あとは、彼らの音楽に取りつかれたファンが、世界中で指数関数的に増殖していくだけだ。

マネスキンの活躍にロックの復権を見ようとする人は少なくない。実際、ダミアーノは、ユーロビジョンで「全ヨーロッパと全世界に言いたい、ロックンロールはけっして死なない!」と、ニール・ヤングの有名なフレーズを思わせる発言をしている。

とはいえ、ジャンルやスタイル間の戦争(「ロック vs. ヒップホップ」のような)、ヘゲモニー争いは、音楽そのものにとって、どれだけの意味があるのだろうか。もちろん、反骨精神がクリエイティビティをもたらすことはあるだろうし、マネスキンのアルバムタイトルだって「憤怒の劇場」だ。だからといって、下火だと言われつづけているロックが再びシーンで大きな存在感を持つようになるかどうかを予想しあったところで、何かポジティブなものが生まれるようには思えない。

ただ、今のところ、ひとつだけわかっていることがある。それは、マネスキンの音楽を聴いた人々の内の何人かが「彼らのようになりたい、彼らのような音楽をやりたい」と思って、ギターやベースを手にどこかのスタジオに入って、ドカドカうるさいロックンロールを奏ではじめるにちがいない、ということ。そして、そこから新しい音楽が生まれるであろう、ということだ。


【関連記事】マネスキンが世界を席巻する理由とは? ロックンロールの救世主が語る野望と信念




マネスキン
『Teatro D’ira: Vol. 1』
再生・購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/ManeskinTeatrodIraVol1

日本盤CD10月13日リリース決定!
※ボーナス・トラック1曲収録予定


マネスキン&イギー・ポップ
「I Wanna Be Your Slave」 
配信中!
https://lnk.to/ManeskinIggyPopRS

マネスキン 日本オフィシャルページ:
https://www.sonymusic.co.jp/artist/maneskin/
マネスキン ストリーミングまとめ:
https://SonyMusicJapan.lnk.to/maneskinRS

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