死の恐怖を乗り越えて学んだこと ハイエイタス・カイヨーテのネイ・パームが激白

「死」と向き合いながら
ネイ・パームが見つけたもの

ー『Mood Valiant』はかなりの時間をかけて作られただけに、制作しながら曲がどんどん変わっていったのではないかと想像します。楽曲やサウンドの変化に触発されて、後から歌詞を書き換えた曲はありますか?

ネイ:曲ごとに成り立ちは違っていて、たとえば「Chivalry Is Not Dead」はみんなで書いてツアーでもやってきて、いい感じになってたからほとんど変えてなくて、古い曲に新たな命を吹き込んだのはヴォーカル・ハーモニーの部分だった。その一方で、「Sparkle Tape Break Up」はレコーディングとミックスを終えたあとに歌詞を書いた。「And We Go Gentle」もそう。この曲はスタジオでのジャム演奏からできた曲で、私がアイルランドにいた時に思いついたフックを基にしていて……だから、本当にいろんなものを繋ぎ合わせたタペストリーみたいなアルバムになったと思う(笑)。



ネイ:「And We Go Gentle」はアイルランドにいた時に、ペリンにライターを借りたくて「火を貸して」って言ったんだけど無視されて、彼がライターを貸してくれるまで嫌がらせしようと“♪Can I get a light〜”みたいに口ずさんでたのが最初のきっかけ(笑)。そのフックを基にセッションしてみたら「いい感じだからちゃんとした曲にしよう」となって、そこから蛾の曲にしようと思いついた。「火がほしい」というコンセプトをどう広げようかと考えて、誰が一番火を求めているかといったら蛾だなって。明かりに引き寄せられすぎて、火に飛び込んで死んじゃうこともあるくらいだし。

あと、この前日本に行った時が、私の母が亡くなってちょうど10年目だったんだけど(ネイは自分と同じ病で母親を亡くしている)、その時に巨大な黄緑色のルナモス(蛾の一種)を見つけて、2日間くらいずっと私から離れなかったんだよね。それでこのタトゥーを入れたんだけど(手の甲にある蛾のタトゥーを見せる)本当にきれいだった。それで蛾についての曲を書こうと思って……あとはモスラも少し引用している。唯一ゴジラを倒せるのがモスラで、天使みたいな蛾っていう発想がすごい好き。ヴァースの歌詞に“Moonlight, I see why some go.”っていうくだりがあるんだけど、それは映画のモスラに出てくるムーンライトSY-3号っていう宇宙艇の名前をもじったもの。そういうオタクっぽいネタも入ってる。歌詞をあとから作る時に楽しいのはそういうところ。最初はただ、ペリンがライターを貸してくれなかったっていうところから始まって、そこから進化してここまで行けるわけだから(笑)。


Photo by Tré Koch

ー今回のアルバムを作ったこと、前作から今作を完成させるまでの過程は、あなたの人生にとってどんな意味を持ちそうですか?

ネイ:前作をリリースしたのは6年前で、そのあと私たちはツアー漬けだった。バンドを始めたらまずはとにかく、自分たちの音楽を世に出すためにがむしゃらに頑張らなきゃいけない。そこには当然ツアーも含まれる。でもそうなると、スタジオになかなか入れなくなる。そういう感じでやってきて、前作のツアー後に1年間の休みができると、私はソロアルバム『Needle Paw』を作った。結構ワーカホリックなところがあるから「なんか作んなきゃ!」みたいになってて。

それからまたバンドで集まって、再び音楽を作り始めて、いい感じの流れができてきたところで私が病気になった。それは人生を激変させる出来事だった。私はある意味、自分の死にゆく運命のことで頭がいっぱいになっていた。だから、この『Mood Valiant』がリリースされるという事実にはすごく癒される。だって本当に完成させられるかどうか確信が持てなかったから。

大きな病気に罹ったことで、人生がどれだけ大切なものかに気づかされた。実際はいつ死ぬかなんて誰にもわからないわけで、もしかしたらバンドの誰かが交通事故に遭うかもしれないし、残りどれだけ生きられるかなんて誰にもわからない。大きな病気をしたことで、そのことに気づかされた。私はつい最近32歳になったけど、寿命とかなんて30代ではあまり考えないものでしょう。もっと歳をとってから考えることだよね。でも、今回のことでお尻に火がついた。限られた時間をどうやって過ごすかについてね。

自分は何者で、何が生きがいなのか。それは私のなかですごくハッキリしている。もし明日この世を去るとしても、私の望みは常に音楽を作り続けて、それを人々とシェアすること。それが私で、私の人生。だからこのアルバムを作り終えた時には、「はい完成、じゃあ出しましょう」みたいな感じではなく、「私はやったんだ、生き残ったんだ」っていう感慨があった。おかげで今は少しリラックスしてる。

そうやって考えてみると、本当に多くの偉大なアーティストが27歳で亡くなっているよね。それにジェフ・バックリィなんて1枚、ライブ盤を入れても数枚しかアルバムを発表していない。ニック・ドレイクもそうだし。私はこの6年間で壮大な旅をしてきたわけだけど、今はもう次のアルバムを作りたい。まあ、一種の依存症かもね。音楽を作ってそれを分かち合うこと、それこそが私の人生の目的だから。というわけで、このアルバムが完成したことで一周回った感じがあるし、リリースされるのが本当に楽しみ。本当に手応えのある作品になったからね!


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『Mood Valiant』
ハイエイタス・カイヨーテ
Brainfeeder / Beatink
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11757

Translated by Akiko Nakamura

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