死の恐怖を乗り越えて学んだこと ハイエイタス・カイヨーテのネイ・パームが激白

ヴァリナワ族との交流、
変幻自在なハーモニーの秘密

ーアマゾンでの体験は「Hush Rattle」に関係があると思います。ここにクレジットされているヴァリナワ族と出会うまでの経緯を教えてください。

ネイ:アナっていう友達がいて、彼女の声が「Flight Of The Tiger Lily」に入っているんだけど、そこでは鳥の名前をヴァリナワ語で何て言うのか教えている。彼女はリオ在住で部族のPajé、つまりメディシン・マン(部族の祭式を取り仕切るシャーマン)と親しくて、私がブラジルにいる間にアナが彼の家族と会うことになり、そこへ私も誘ってくれた。

それから10日間くらい一緒に過ごしたんだけど、最後の日にそのコミュニティの人たちがみんなで集まり、ビーズの飾りがついた伝統衣装を着て、私とアナのためにメディシン・ソングを歌ってくれた。それを私たちは録音させてもらった。だから「Hash Rattle」には女性が歌っている声が入っているし、あの曲はアルバムのなかでも、ほとんど神聖と言っていいくらい特別なもの。あの曲では私も、彼らに教わったヴァリナワの言葉で歌っている。「エヤエウェッイ、エヤエロナッイ」と歌ってるんだけど、「エウェッイ」が「全身全霊であなたを愛しています」、「エヤエロナッイ」は「いつもあなたを恋しく思っています」という意味。私はこの言葉をヴァリナワの人々へのラブレターとしても使っている。

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ヴァリナワ族とネイ・パーム

ネイ:で、私の歌のバックに(現地で録音した)女性たちの歌声のサンプルを入れてるんだけど、みんな節の終わりをメチャクチャ長く伸ばせるし、ひとりずつが違う長さで終わって、パッと音を切る時の声がまた美しくて。その部分も曲に入ってる。あと、最後にヤクって名前の男の子が、自分が描いた戦士の絵を見せてくれた時の「オヘマワタ」、「僕が描いたかっこいい絵を見てよ」っていう意味の声も入ってる(笑)。だからこの曲には歌声だけじゃなくて、私があそこで過ごした時間も入ってるわけ。

ちなみに笛の音も入ってるけど、それは次の曲「Rose Water」からのもので、これはガイタっていうコロンビアの笛。メルボルンにいる私の友達がこの楽器をやっていて、ハイエイタスの前に、彼と一緒にクンビアのバンドをやっていたことがあった。実はブラジルに行く前から「Rose Water」用にこの笛を録音してあったんだけど、その一部分をテープマシンでスロー再生して使っているから、「Rose Water」のものとはピッチが違う。そこにヴァリナワの女性たちの声を重ねて2つの曲を繋げたんだけど、この部分は私にとって特別なものになった。




ー「Get Sun」ではあなたの声が楽器のようにたくさん入っています。1曲の中でもどんどん重ね方も変わるし、エフェクトで質感や響きを変えた様々な声が組み合わさっている箇所もあります。この曲における声のパートはどうやって作ったんですか?

ネイ:私がアーティストとして一番好きなのはヴォーカルのハーモニー。でも、スタジオに入る前に自分が何をやるかはいつも全く考えていない。理論はわからないから、事前に譜面を書くこともしないしね。頭の中で鳴っている音をよく聴いて、スタジオに入った時にそれを具現化するって感じ。あと面白いことに、実際はヴォーカルにほとんどエフェクトはかけてない。一箇所くらいコーラスで使ってるけど……バイロンの熱帯雨林にいた時に空の貯水槽があって。そこにアンプを入れてみたら、貯水槽が生のリバーブをかける役目を果たしてくれたんだ(笑)。音をそこに送ると、すごく綺麗でオーガニックなエコーがかかってくれた。自分はスタジオで歌っていて、貯水槽からは離れたところにいるんだけど、マイクの横にスピーカーがあって、貯水槽に送られていく音を同時に聴いていた。その音が少し「Get Sun」のミックスに入っている。それと「Sparkle Tape Break Up」では、貯水槽でかなり遊んだからあれだけ突拍子もない感じになった。



ネイ:でもとにかく「Get Sun」のヴォーカルのレイヤーは、エフェクトっぽく聴こえるような混ぜ方をしてるけど、実は自分自身への挑戦という感じで、人間の声は変幻自在なんだってことを実践している。ヴォーカルを重ねる時は、息継ぎや音の切り方次第でいろんなニュアンスや質感を出すことができる。それは普段から物凄く意識してやっていること。さらにこの曲では、本当は(エフェクトを使っているのではなく)生の声で、聴いている人の耳を引っ掛けるようなことをやろうと思った。というわけで、(普段から)プロダクションではそれほど弄らず、ほとんど歌い方だけで表現して、今回のトリックは空の貯水槽だったっていうこと。

Translated by Akiko Nakamura

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