ジャクソン・ブラウンが語る10代の記憶、ジミヘンとフィービーの「ギター破壊」への共感

 
ローレル・キャニオンでの交流、より良い未来のために思うこと

こういったアーティストがお互いを助け合い、刺激を与え合う交友とそれを育む環境を、ジャクソンは若くして体験している。彼もそのアーティスト・コミュニティの一員だった60~70年代のローレル・キャニオンへの関心が近年再び高まり、『エコー・イン・ザ・キャニオン』(2018年)と『Laurel Canyon: A Place Time』(2020年)、2本のドキュメンタリーも制作された。ジャクソンは両方の映画に登場する。



「『エコー・イン・ザ・キャニオン』は決して完璧な映画じゃないね。たくさんのことを省いていた。黒人がひとりも出てこないし、あそこで音楽を作っていたバンドがほとんど話していない。クロスビーとか、そういった人たちばかりだ。実際には、ローレル・キャニオンではあらゆる種類の人たちが隣り合わせて暮らしていた。アリス・クーパーとデイヴィ・ジョーンズとか。フランク・ザッパの一派とモンキーズ、これほど異なる人たちはいないだろ(笑)。

僕はピーター・トークと友だちで、彼の家でよく遊んでいた。彼は寛大で、誰にでも門戸を開けていたから、みんなが彼の家に行った。彼は元々フォーク・ミュージシャンで、TVの人気者だったけど、スター気取りのない良い男だったよ。あそこでは凄いことが頻繁に起きていて、ジミ・ヘンドリックスが10人ほどを前に演奏したのも見ている。スティーヴン(・スティルズ)がプールハウスによく閉じこもって何時間もギターを弾いていたけど、或る日そこにジミとバディ・マイルズがやってきて、ジャムを始めたんだよ。だから、凄いことを目撃したけど、とても平等主義的で、スノッブな態度はなかった。誰も人をこきおろさなかったし。ローレル・キャニオンにはそういった良い雰囲気があった。やがて音楽産業の階級制度がそれを壊していったんだけどね」

ジャクソンはCSN&Yやジョニ・ミッチェルらよりも年下で、1967年に自作曲が他の歌手に取り上げられ始めたときにはまだ10代の早熟のソングライターだった。

「僕のような18歳の少年が、ドアーズやジャニスを手掛けたプロデューサーのポール・ロスチャイルドとつるんでいたんだからね。みんながお互いの家を訪ねて、リヴィング・ルームで時間を過ごしていた。ハイになって、お互いの音楽を聞かせ合った。助言をくれたりもした。ポールは『ブレヒト&ヴァイルの曲を聴いたことあるかい?』と、『マハゴニー市の興亡』という素晴らしいオペラのアルバムを聞かせてくれたりした。ドイツの前衛的な劇作家と作曲家の録音を教えてくれたわけだ。彼はドアーズのアルバムで、そこから『アラバマ・ソング』をとりあげているね。

誰かの家にいたら、クロスビーがやってきて、この少年に彼の曲を聴かせてくれて、こちらも彼に自分の曲を聴かせた。同等だった。そこには平等主義があった。あの頃、誰も名声を信じてなかった。名声なんてくだらないとみんなが知っていた。ハリウッドの名声を作り出すからくりを目にしていたから。有名になる努力じゃなくって、良いアーティストになる努力をしていた。クリエイティヴな人間になれるかもという可能性を喜んで受け入れていたんだ」









当時のローレル・キャニオンでの交友と、現在の彼が楽しむ若いアーティストたちとの交友に似たところはあるのだろうか。

「うん、あると思う。僕らの集まりは若い連中ばかりではないよ。そこに(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの)ベンモント・テンチも加えたいね。彼はクリエイティヴなミュージシャンで長年、素晴らしい音楽の集まりのホストを務めている。

ジョナサン(・ウィルソン)を見ていると、今や長老のひとりだなと思う。たくさんの若い連中に慕われ、彼らを助けている。ハイチで作ったアルバムも、ジェニーを誘ったのはジョナサンだったし、みんなが仲良くうまくやれたのも、彼のおかげだ。彼は冒険的なことをやるのが好きで、お金を稼げるとかじゃなくって、興味深いことができるかに基づいて音楽をやっている。

サラとショーンも同じ。仲間を集めてのギグ(「ワトキンズ・ファミリー・アワー」)をずっとやっている。ラーゴという小さな場所でやっているから、見たことのある人たちはそんなに多くないかもしれないけど、たくさんの才能ある人たちが集まるんだ。例えば、マディソン・カニンガムだ。サラたちに一緒にやろうと呼ばれ、舞台に上がると、マディソンのような素晴らしい才能に出会って驚かされるわけさ」



ジャクソンにとって、若い人たちと一緒にやろうという姿勢は仲間たちと音楽を作ることだけではない。新作の終盤に置かれた「ア・リトル・スーン・トゥ・セイ」は、若い世代全般に向かって、より良い未来のために協力して働こうという呼びかけだ。その曲を書くきっかけは、昨年共演シングルも発表したグレイス・ポッターが主催するフェスティヴァルでの体験だったという。

「そのフェスの参加者はみんながとても良い人たちだった。彼らはお互いを受け入れていた。年齢も何もかも随分違う人たちが集まっていたのにね。人びとがそうあってほしいと僕が願う観客だった。そんなふうに感服させられる人たちを目にする一方で、若い人たちのことを考えると、僕らが彼らに何を残せるだろうかと心配にもなった。世界をもっと良くして、彼らにもっと良い人生を送ってもらうために、僕らが協力してやらねばならない仕事について考えることになったんだ。でも、何よりも僕の希望を表現したかった。『大丈夫だよ』と彼らに言いたかった。人びとに前向きに歌いかけ、僕自身も良い気分になりたかった(笑)」

ただし、曲名に「そう言えるにはまだちょっと早い」とあるように、我々はより良い未来のためにもっともっと努力しなければならないだろう。

「うん。でも、希望的な調子で締め括ってもかまわないと思うよ。彼らはそれを実現できるし、それを手伝いたい。誰もが自分のできることを見つけなくちゃならないし、みんなが世界を良くするために自分のできることを見つけてくれることを望むよ」


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ジャクソン・ブラウン
『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』
2021年7月23日(金)発売
定価¥2,860(税抜価格¥2,600)

【完全生産限定盤】
3面紙ジャケット仕様(FSC認証紙使用)
高品質Blu-spec CD2仕様(日本盤のみ)
歌詞・対訳・解説付(日本盤のみ)
*対訳:中川五郎
*解説:五十嵐 正

アルバムを今すぐ再生/購入
https://jacksonbrowne.lnk.to/DownhillFromEverywhereRS

 
 
 
 

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