ジャクソン・ブラウンが語る10代の記憶、ジミヘンとフィービーの「ギター破壊」への共感

 
フィービー・ブリジャーズと1967年のジミ・ヘンドリックス

そんな友人の広がる輪のなかでも、特に目立つ存在が、若手のシンガー・ソングライターのなかで今最も注目されるフィービー・ブリジャーズだ。ジャクソンは今年初め彼女の「キョウト」の再録音版で一緒に歌い、そのお返しに新作の「マイ・クリーヴランド・ハート」のヴィデオにフィービーが看護師役で出演して、大きな話題を呼んだ。彼女は父親が弟をジャクソンと名付けたほどの熱烈なファンだったので、彼の音楽は子供のときから聴いていたそう。

「数年前に(ベーシストの)タル・ウィルケンフェルドとか、共通の友人たちの集まったパーティーで紹介された。でも、おかしなことに、最初に会ったとき、彼女は僕の音楽が好きだとか、まったく言わなかった。その集まりで午後をずっと一緒に過ごしたのにね。弟の名前は1カ月前くらいに知ったばかりなんだよ(笑)」



ジャクソン・ブラウンが参加した「キョウト」再録音版

2007年にソングライターの殿堂入りも果たしたロック詩人にとっても、フィービーのソングライティングはとてもユニークなものだという。

「彼女の言葉の使い方は僕には謎で、どのようにやっているのかわからない。その歌詞は真実を語り、とても暗い。でも、彼女の歌声のサウンドには特別な何かがある。いつだってピュアで、静かに歌う。それが暗い題材でも、口にするのが難しいかもしれないことでもね。歌い方自体にマジックがあるのだろう。その歌い方のおかげで、歌詞がみんなの心や感情に入り込むんだ」

「キョウト」は米英のメディアが選ぶ昨年のベスト・アルバムをほぼ総なめにしたフィービーの2作目『パニッシャー』の収録曲だ。ジャクソンはその曲に賛辞を贈る。

「「キョウト」は彼女の曲のなかでも最高の曲のひとつだと思う。もちろん京都についてじゃない(笑)。耳をよく傾け、注意を払うほどに報われる類の曲だ。何を意味しているのか、何について語っているかをパズルのように解き明かすことによってね。あの曲で彼女は弟と一緒にいて、誕生日に電話をくれたけど、10日遅れだったよ、と弟は言う。最初は恋人の話だろうと推測した。彼女の弟にとってクールな存在になろうとする。それが点数稼ぎにボーイフレンドのやることだろ(笑)。でも、それから気づく。いや、違う。これは父親についての曲だと。すごく深い歌なんだよ。父親が彼女と弟との関係をやり直したいと求めている。それは優れた短編小説と同じで、とても多くについて語っているんだ。そこまで歌うかということまでね。彼女は熟達したソングライターだよ」


"女性差別というロックの悪しき伝統を覆す、フィービー・ブリジャーズによる「ギター破壊」の意味"より


そのフィービーは2月に人気長寿TV番組「サタデイ・ナイト・ライヴ」に初出演し、最後にギターを叩き壊すパフォーマンスを披露し、論争を巻き起こした。特にその火を煽ったのは、ジャクソンの長年の友人デイヴィッド・クロスビーの《ギターを壊すなんて、愚かな行為だ》というツイートだった。そして、男性ギタリストが長年繰り返してきた行為を若い女性がやるだけで非難されるのは、そこに性差別やジェンダーの問題があるのでは?と論争はさらに展開していった。

「音楽界が変化したというより、女性たちがもう我慢することをやめて(笑)、立ち向かうようになったんだね。でも、多くの男たちはわかっていない。クロスビーは考えを変えるには年を取りすぎている。彼には昔から幾分ミソジニーなところがあったしね。《ギターを壊すのは、曲を書けないやつだけだ》というツイートをリツイートされて、からかわれていたよ。《そうだね。ジミ・ヘンドリックスとか?》って(笑)。問題はそれをやったのが女性かどうかじゃない。彼女は世界の終わりを、破滅を描いた。曲は「アイ・ノウ・ジ・エンド」だったんだから。世界の終末、人生の最後に何をする? その象徴として何をできる?ということだった。そして同時に、愉快なやり方で(ロックのクリシェなふるまいの)ある種の風刺をやったわけだ。全国放送の人気番組という機会を利用してね」



そこから思いがけない昔話が始まった。なんとジャクソンはあの歴史的な場面に居合わせたというのだ。

「僕は(1967年の)モンタレー・ポップでジミ・ヘンドリックスがギターを燃やしたとき、あそこにいた。そして、その3カ月前にはニューヨークでザ・フーがギターをぶち壊すのをいち早く観ていた。あれはアートの行為でもあった。ピート・タウンゼントはアート・スクール出身だからね。ギターを壊すのは一種のアートなんだ。モンタレーでジミはザ・フーの前に出演したかった。でも、彼らは拒否した。誰もジミの後に演奏したくない(笑)。それまで聞いたこともなかった、飛び抜けて凄いギタリストだったからね。ザ・フーが先に出演したので、ジミは彼ら以上のことをやらなくちゃならなくなって、自分のお気に入りのギターを燃やしたんだ。間近で目撃したけど、それは彼とザ・フーの音楽の違いでもあったね。同じギターを壊す行為でも、激怒や破壊の表現というよりも、音楽の奉納のようなものだったな。

だから、ギターを壊すという行為には、ロックの歴史に深く刻まれたつながりがある。でも、フィービーがあれをやろうとした決断は、そのタイミングがふさわしかったというだけだと思う。インタヴューを聴いたことがあるなら、彼女がどれだけ知的で、クリエイティヴな人間かわかるはず。あれが愉快だったのは、彼女が肩肘張らずにやったことだ。そのことで誰かを感心させようとか、まったく考えていなかった。気持ちよさそうにやっていたよね。

僕は彼女にすごく感服している。録音に招いてくれてとても嬉しかった。君はコラボと呼んだけど、コラボと呼べる部分はちょっぴりで、歌ってほしいと頼まれただけさ。とても良い出来になったね。フィービーは彼女の周りのクリエイティヴな人たちにものすごく影響を及ぼしているよ」

 
 
 
 

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