ジャクソン・ブラウンが語る10代の記憶、ジミヘンとフィービーの「ギター破壊」への共感

ジャクソン・ブラウン(Photo by Nels Israelson)

 
ジャクソン・ブラウンのニュー・アルバム『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』が届いた。70年代にジェイムズ・テイラーらとシンガー・ソングライターのムーヴメントを巻き起こす一方、ヒット曲も提供したイーグルズなどと共にカリフォルニア・サウンドを発展させて、ロックの殿堂入りも果たした重要人物であり、社会問題に積極的に関与するアーティストの代表格としても有名だ。7年ぶりの新作でも、60年代に始まった彼とその世代の旅を検証する視線を持つ作品に加え、プラスティック廃棄物の海洋汚染を扱った表題曲をはじめ、社会正義から移民までの様々な社会問題を取り上げている。

そんなジャクソンは大御所の地位に安住することなく、地元ロスアンジェルズの若い世代のミュージシャンと積極的に交流しており、今や彼らの精神的父親といった存在でもある。筆者は5月にZoomで彼に新作の内容をはじめ、いろいろと話を聞いたが、本誌にはローリングストーン誌フランス版のインタビュー記事を掲載済なので、ここではジャクソンを慕うひとり、フィービー・ブリジャーズらとの交流や近年関心が改めて高まるローレル・キャニオンの回想などの話を紹介しよう。




若い世代との積極的な交流

2004年にジャクソン・ブラウンがロックの殿堂入りした際、お祝いの言葉を寄せた2人の親友、ブルース・スプリングスティーンとボニー・レイットが揃って、ソングライティングへの称賛と共に指摘したのが、友人のキャリアを助けたり、社会運動に貢献したりする彼の寛大さだった。ロック・スターとして君臨した70~80年代にも、ウォーレン・ジヴォンのプロデューサーを買って出て、彼を再デビューさせたのをはじめ、ネイティヴ・アメリカンの詩人から米政府が暗躍した内戦に苦しむ中米のグループまでの重要なメッセージを持つアーティストたちの作品を世に送り出し、名ギタリスト、スティーヴィー・レイ・ヴォーンに自分のスタジオを無償提供し、そのデモ録音がほぼそのままデビュー・アルバムとなるなど、友人たちの支援に力を惜しまなかった。「彼らのキャリアを手助けしたというけど、僕が彼らの音楽を聴きたかっただけなんだ」と、本人はとても謙虚に振り返るが。

そんなジャクソンの姿勢は今も変わらず、2000年代以降はもっと若い世代にも交流の範囲を広げてきた。「同じ価値観をもつ若いミュージシャンたちを見つけられて、とても幸せだ。彼らはとても素晴らしいミュージシャンたちで、みんな才能豊かだ」とその喜びを語る。今回の取材でも、会話中に携帯が鳴り、「ごめん、これだけは取らないと」と話し始めた相手が、プロデューサーとしても活躍するシンガー・ソングライターのマイク・ヴァイオラで、自ら顧問も務める海洋汚染問題と闘う団体プラスティック・ポリューション・コーリションのためのイヴェントの打ち合わせだった。

その2週間後に行われたストリーミング・コンサートにはファミリーとも呼べる良き仲間たちが揃っていた。時折ジャクソンのバック・バンドも務めるドーズ(Dawes)のテイラー・ゴールドスミスと彼の妻、女優で歌手のマンディ・ムーア、親友ロウエル・ジョージの娘で、彼の死後は代父を引き受けたバード・アンド・ザ・ビーのイナラ・ジョージ、ジャクソンのツアーに加わったこともあるショーン&サラ・ワトキンズ兄妹(ニッケル・クリーク)、実家の楽器店の長年の常連なので、子供の頃から知っているベン・ハーパー、伝統的なフォークやブルーズの持つ社会批評性を引き継ぐという点が共通するケブ・モーという顔ぶれで、彼らはアーティストであり、社会活動家であるジャクソンを尊敬し、良きお手本としている。


プラスティック・ポリューション・コーリション主催のストリーミング・コンサート「Magnificent May Virtual Concert」(2021年5月22日開催)公式プログラムより引用

『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』にしても、ほとんどを自分のバンドと録音したが、収録曲の背景には様々なアーティストとの交流がある。レスリー・メンデルソンとの共作及びデュエットの「ヒューマン・タッチ」をはじめ、「ザ・ドリーマー」は2017年にメキシコ系米国人グループ、ロス・センゾントレズとロス・ロボスのデイヴィッド・ヒダルゴとの共演版をシングルで発表しているし、「ラヴ・イズ・ラヴ」は2010年の大地震以降支援を続けるハイチで、ジェニー・ルイスやジョナサン・ウィルソンを伴って参加した国際的な顔ぶれによる現地録音アルバム「Let the Rhythm Lead – Haiti Song Summit Vol.1」(2020年)で最初に発表した曲である。また、アルバムを締め括る「ア・ソング・フォー・バルセロナ」を捧げた街バルセロナでは、20年以上にわたってスペインのミュージシャンたちと友情を育んできた。


 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE