田中宗一郎×小林祥晴「2021年2ndクォーター総括対談 過去・現在・未来が溶け合う2020年代的光景の到来?」

オリヴィア・ロドリゴ、2021年5月11日撮影(Photo by JMEnternational/JMEnternational for BRIT Awards/Getty Images)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年6月25日発売号の誌面に掲載された田中宗一郎と小林祥晴による対談記事。テーマは2021年2ndクォーターの総括だ。

デュア・リパやザ・ウィークエンドのようなパンデミック直後から2年越しでずっとチャートに居座っている作品がある一方で、リリース週にトップ10入りしたかと思えば数週間で姿を消してしまう作品もまた毎週のようにリリースされる。と思えば、40年以上も前の作品がずっとチャートに居座っていたり――。ストリーミングサービスとソーシャルメディアによるヴァイラルが一般化した現在、これから先、当分の間は、そんな「2020年代的状況」がごく普通の光景になるのかもしれない。ここで2人は、そんな目まぐるしい変化の中から特筆すべき動きをいくつか抜き出し、文脈化を試みている。ぜひPOP RULES THE WORLDが選んだ「2021年2ndクォーターを象徴する50曲」のプレイリストと併せて楽しんでもらいたい。

POP RULES THE WORLD「2021年2ndクォーターに聴きたい50曲」



・BTSはしなやかで強かなポップのゲームチェンジャー?

小林:前回のこの対談記事では「年明けの3カ月間は、Z世代の新たなアイコン、オリヴィア・ロドリゴの世界的なブレイクを除けば、ほぼ大した事件はなかった」みたいな話をしてたのに、この3カ月間で一気に歴史が動いた感ありますね。

田中:動いたね。で、2021年前半の主役は、BTS、オリヴィア・ロドリゴ、J・コールの3組でいいんじゃないかな。質においても産業的なインパクトにおいても。

小林:まずJ・コールのアルバム『The off-season』が全米1位、それを蹴落として、オリヴィアのアルバム『SOUR』が全米首位に躍り出た。彼女の3rdシングル「good 4 u」も全米1位。もはや今年を振り返った時に最初に名前が挙がるのは、まずオリヴィア・ロドリゴなんじゃないか?っていう。

田中:と思いきや、翌週、その全米トップの座を奪ったのがBTSの「Butter」(笑)。誰もが予想していたとは言え、あまりに鮮やか。パンデミックが予想以上に続いてることを受けて、ARMYに向けた2曲目のサマーソングという位置付けなんだけど――。

小林:一言で言うと、勢い乗ってんなー、誰も適わないわ、っていう。ただ、再び全編英語詞だという部分も含めて、「Dynamite」からの論理的な発展ではありますね。

BTS (방탄소년단) ’Butter’ Official MV



田中:サウンド的にはbpm110のディスコソング。これってトラップとはまた別の、2010年代半ばのシグネチャーサウンドでもあるわけじゃない?もはやエッジーとは言い難いけど、時代の鉄板サウンドだよね。

小林:2013年のダフト・パンク「Get Lucky」にはじまり。だから、BTSの次の一手として「Butter」が同じ路線というのは安全パイとも言える。

Daft Punk - Get Lucky (Official Audio) ft. Pharrell Williams, Nile Rodgers



田中:でも、決してエッジー過ぎない、この絶妙な塩梅は、もはやBTSの作家的シグネチャーなんじゃないかな。そこに彼らは自覚的なんだと思う。歌詞も本当に巧みでさ。今まさに絶頂期にある自分たちのボースティングであると同時に、これからもARMYと共に進むことを訴えかけている。常にファンの帰属意識に向けて曲を作っているのは65年のザ・フーみたい(笑)。

小林:ファンダムとの関係性を意識しながら曲を作るのは2010年代の基本だけど、「Butter」の場合、歌詞にARMYって言葉がダイレクトに出てきますからね。アリアナだって歌詞にアリアネイターズって入れないですもん(笑)。

田中:それに「バター」というのは、グローバルカルチャーに対する「侵入者」というメタファーになってる。ただ、攻撃的に攻め込むわけじゃなく、俺たちは溶け出したバターが染み込むように、しなやかで強かに浸透していく存在なんだ、っていう宣言なんだよね。

小林:すべてが見事過ぎ。怖いとすら思えるほど(笑)。しかも、これは今回の「ポップトレンド」でも詳しく触れましたけど、BTSの所属事務所HYBEがスクーター・ブラウンの会社イサカ・ホールディングスを買収した。

田中:つまり、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデもテイラー・スウィフト初期6作の出版権もすべてBTSの事務所の持ち物になったということ。

小林:とんでもないことですよ、これは。

田中:しかも、「Butter」のソングライターとプロデューサーとして、彼らの北米でのレーベルであるコロンビアのCEOロン・ペリーがクレジットされている。これはポップ音楽がどんな風に作られて、どう利益配分されるのか?――その新局面到来の序曲だよね。2010年代初頭にマックス・マーティンやスウェーデンのサウンド・プロデューサーがコ・ライティングというスタイルを定着させた、その次の局面が訪れるのかもしれない。そもそもロン・ペリーは2010年代後半の音楽産業の構造変化を牽引した最重要人物の筆頭だし。この辺りの動きは今後のグローバル音楽産業の構造変化のきっかけになりそう。で、その中心にBTSがいる(笑)。

小林:ワクワクもするし、少しゾッともするっていう。

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