ガービッジのシャーリー・マンソンが語る男性優位社会との闘い、パティ・スミスからの学び

性差別や女性蔑視との闘い

ー好きな本は何ですか?

シャーリー:たくさんあるわ。真っ先に浮かぶのは、フィリップ・ロスの『アメリカン・バーニング』。コーマック・マッカーシーの『すべての美しい馬』も好きだった。マイケル・オンダーチェの『ビリー・ザ・キッド全仕事』とかね。『くまのプーさん』も好きだし、『嵐が丘』も好き。心に残っている古典作品はたくさんあるわ。

最近読んだ本で一番のお気に入りは、(ロシアのバレエダンサー、ルドルフ・)ヌレエフをテーマにしたコラム・マッキャンの『Dancer』。すっかり魅了されたわ。読んでいてすごく楽しかったし、彼は本当に才能ある作家よ。去年も、パレスチナとイスラエルの板挟みを描いた『Apeirogon』という本を出したんだけど、彼は複雑な問題をいとも明確に、思いやりと優しさを交えて描くの。『Apeirogon』が去年話題にならなかったなんて信じられないわ。他の本の沼に埋もれちゃったみたいね。それともちろん、COVID-19が世界にもたらした惨状のせいね。

ー若い時の自分にアドバイスするとしたら?

シャーリー:「自分の場所を確保しなさい」。私が子供のころ、女の子はできるだけ出しゃばらないように、と言われた。「足を開いちゃだめ。大声を出しちゃだめ。笑って。可愛らしく。魅力的に。愛想よく」とね。私は子供のころから、本能的に歯向かったわ。反抗的な子供だったから、隅っこに追いやられて黙ってるなんてことはしなかった。一度もね。でも今になって振り返れば、やっぱり私にもある程度従順していた部分があったと思う。そういう自分が嫌だっていうわけじゃなくて、昔にもどって若い時に自分にこう言ってやりたいの。「自分の場所を確保しなさい。自分の居場所がないなら、テーブルに椅子を引っ張って行って無理やり座るのよ」って。

私が今まで戦わなくちゃならなかった性差別や女性蔑視は、今も存在している。「ああ悲しい!」なんて叫んだりしないわ。もちろん私は仕事で成功してきたおかげで、道を阻まれるようなこともなかったからね。でも、他の女性には同情するわ。私と違って気が強いわけでもなく、教育環境も違って、私みたいにはっきりものが言えない女性たち。でもみんなにそうなってほしいの。媚びを売るのをやめて、「気に入ってくれる人もいればそうじゃない人もいる、それでいいんだ」ってことを受け入れてほしい。自分を理解してくれない人がいても構わないだって。



ージェンダーの話題でいえば、新作に収録された「Godhead」にすごく励まされました。あの曲では「もし私にディックがあったら」世間から違った扱いをしてもらえたんじゃないか、と自問していますよね。

シャーリー:あの曲は自信作なの。話題はすごくシリアスだけど、面白いでしょ。家父長制がどれだけ周りにあふれているかってことがテーマなの。若い時は仕事に忙しすぎて、家父長制が存在することにも気づかなかった。大人になってからよ、昔を振り返って「ああ、そういえばA&Rの担当者から面と向かって、私の写真をオカズにしている、って言われたな。あれってサイアク」ってね。でもその時は、みんな笑い飛ばしてやりすごすの。

私も当時はそのことに気づかなかった。この曲では、家父長制があらゆるものに紛れ込んでることを歌っているの。とりわけ組織化された宗教にね。「Godhead」、つまり神は男性で、私たちは何の迷いも持たず神のもとに仕える。それっておかしくない? それもひとえに男が社会で高い地位を占めているから。男にはサオとタマがあるから。えてして私より肝っ玉はちっちゃいのにね(笑)。

ばからしくなるわ、男権社会を守るために男性が他の男性をかばうのを見てると。男の仲間意識についてすすんで声を上げたり、身近な男性の行動を疑問視するような男性はほとんどいない。結局男性は、男が他人に暴力をふるうというきわめてショッキングで恐ろしい、気の滅入るような情けない行為を直視したがらないの。

ー1996年、バンド仲間のブッチ・ヴィグがあなたについてこういっていました。「強烈さを表現するのに叫ぶシンガーは大勢いるが、彼女はまるで正反対だ。度肝を抜かれたよ」 こうしたやり方はどこから生まれたんですか?

シャーリー:わからないわ。私はいさかいには慣れっこだから、相手から物静かに話しかけられるとものすごく恐ろしく感じるってことがわかったの。私はいさかいとともに生きてきた。おかしな話だけど、そのほうが私もワクワクするのよ。相手から怒鳴られても怖くないし、逆に怒鳴り返してやりたくなる。うちの家族がそうだったの。いつもお互いに怒鳴りあっていた。だから癇癪を起すのは怖くない。私にしてみれば、相手がものすごく落ち着いているときのほうが、怒りを抑えて本当に真剣なんだってことがわかる。そういうときが一番怖いのよ。



ー最後は、浅はかな質問です。

シャーリー:おバカで上っ面な話は大好きよ。

ーこれまで自分に買った、最高のご褒美はなんですか?

シャーリー:バンドが絶頂期だったころ、買い物を代行してくれる人を雇って、買ったものを全部大きな箱に入れてホテルまで送ってもらってたの。その中からほしいものを選んで、あとは全部送り返すわけ。ある日すごく素敵なイタリア製のレザーブーツが届いた。似たようなブーツを「Stupid Girl」のミュージックビデオでも履いてて、「あらいいわね、私っぽいわ。これは買いだね、素敵」って思ったの。ツアーから戻って初めて、5000ドルもする代物だって知ったの。笑ってごまかすこともできなかったわ。自分でも馬鹿じゃないかと思った。そのブーツは今も持ってるわ。もう二度と見なくてすむように処分したいんだけど、今もブーツはあそこで毎日、私の欲深さを警告しているの。

From Rolling Stone US.




ガービッジ
『No Gods No Masters』
発売中
https://garbage.lnk.to/NoGodsNoMasters


Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE