ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスが語る、共作アルバムで描いた「悲しみと再生の物語」

ジェニー・ベスとボビー・ギレスピー(Photo by Sarah Piantadosi)

 
プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとサヴェージズのジェニー・ベスによるデュエット・アルバム『Utopian Ashes』がリリースされた。

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「愛の崩壊、真のコミュニケーションの不可能性、人生の中で避けられない現実に直面している夫婦の物語を表現している」

そのようにボビーがアルバムのテーマを語っているが、危機を迎えている夫婦という題材はそこらじゅうに転がっているようなものだ。経済的な理由、仕事や子育てにまつわる環境など、現代社会には夫婦の関係に亀裂を入れるきっかけがいくつも潜んでいる。

しかし、ボビーとジェニーの夫婦の間に何があったのかは明かされない。互いの荒涼とした心象風景が、曲が進むに連れて描かれていく。そんな状況にある人たちや過去に経験した人たちにとっては傷を舐められるような作品だが、歌詞を読み解いていくと、痛みや喪失の中から一筋の希望の光を見出すことができる。その希望こそがボビーとジェニーが最も訴えたかったことにほかならない。

「僕はただ、普遍的な真実というものを描きたかったんだ」

Zoomを通してのインタビューで、ボビーはアルバムのコンセプトについて、こう切り出した。

「経験に基づいた実存的な現実というのかな。人間同士の相容れない矛盾や、不明瞭な感情といったもの。僕は、人間というのは分断によって結びつけられていると思うんだ。つまり、人間が背負っている痛みの大部分は、他の誰かと繋がりたい、結ばれたいという思いから来ているんじゃないか。そう願っているのに、ぴったりと重なり合うことは永遠にないんだよ。ある一瞬、心が通ってひとつになることはあるし、精神的な結びつきをほんのわずかな間感じることもある。でも、それは永遠には続かないし、完全にひとつになることはないんだ。僕たちはまるで、孤島のようなものだと思う。誰かと地続きのように繋がることはないんだよね。それがあらゆる種類のリレーションシップに対する真実だと思う。だからこそ、僕たちは誰かと繋がることにこれほどの魅力を感じるんだと思うんだよね」(ボビー)



一方、ジェニーは具象的に踏み込んでコンセプトについて話してくれた。

「最初のシングル(「Remember We Were Lovers」)では、一組の男女が彼らの抱えている葛藤と、それをどう乗り越えるのか、その難しさについて歌っているけれど、ある意味伝統的なテーマだと思う。ティーンエイジャーの恋の悩みや失恋とは明らかに異なる胸の痛み。それは、彼らがそれまで一緒に旅してきた軌跡があるから。結婚して、生活を共にして、もしかしたら子供もいるかもしれない。責任感の重みも違うし、人生のコミットメントなわけだから。このアルバムは、そうしたリレーションシップの崩壊に焦点を当てているというよりも、その問題に対峙して、なんとか関係を立て直そうと葛藤する男女の姿を描いていると思う。そのために対話を重ねているんじゃないかな。もし話し合うこともなくなってしまったら、関係性は完全に壊れてしまうから。“I don’t love you anymore”なんてとてもヘヴィで辛いフレーズだけど、そうやって自分の心の内を語ることで、なんとか関係性を修復したいと考えているからこそ出て来た言葉じゃないかと思っている。もう愛していない、って言っているけど、それはまだ愛が残っているから言えることだから(笑)。その愛を取り戻したいという心の叫び。まずは自分の相手に対する正直な感情をぶちまけることで、2人の未来を変えたいという気持ちの表れだと思う。私は、このアルバムのコンセプトをそういう風に解釈したけれど」(ジェニー)

 
 
 
 

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