R&Bの名盤、メアリー・J・ブライジの2ndアルバムに隠された物語

メアリー・J・ブライジの2ndアルバム制作をテーマにした最新ドキュメンタリー『My Life』(Amazon Studios)

トップ10ヒット曲やミリオンセラーのアルバム、グラミー賞にアカデミー賞ノミネーションと、長きにわたる輝かしいキャリアを誇るメアリー・J・ブライジ。だが、彼女にとってとくに重要な意味を持つものが一つある。「アルバムは13枚出したけど、2ndアルバム『マイ・ライフ』が私にとっては一番大事」。1994年にリリースされた作品を称える最新ドキュメンタリーの中で、彼女はこう語っている。

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『マイ・ライフ』は「初めてファンに語りかけた」瞬間であるだけでなく、「苦悩を乗り越えた時期」というのがブライジの見方だ。炎の中を潜り抜け、より一層強くなって生まれ変わった克服の物語こそ、その後の彼女のキャリアを形作ってきたものだ。彼女のように、自らの葛藤と心理的重圧を赤裸々に語るパフォーマーはそういない。

1992年のデビューアルバム『ホワッツ・ザ・411?』が成功を収めた後、ブライジは製作陣を絞り込み、主にP・ディディやチャック・トンプソンらプロデューサーとの作業をメインに『マイ・ライフ』の17曲を制作した。ソウルへのオマージュは以前にも増し――心和ませるR&Bのサンプリングがアルバムのあちこちにちりばめられ、年配リスナーを優しく誘う――曲の内容はさらに鋭く、単刀直入になった。『マイ・ライフ』の大半は、さながらセラピーセッションだ。ブライジは深刻な依存症であることを告白し、健全な考え方を身に着けようと努力する。アルバムの最後を飾る「ビー・ハッピー」で歌っているように、“自分を愛することができないのに、他の誰かを愛することなんかできる? 自分をちゃんと好きになれなきゃ、旅立ちの時はわからない”

Amazon Studios制作のドキュメンタリー『Mary J. Blige‘s My Life』にはブライジの家族やかつてのコラボレーター(トンプソン、P・ディディ)、レコード会社の大御所(アンドレ・ハレル、ジミー・アイオヴィン)、有名俳優や女優(タイラー・ペリー、タラジ・P・ヘンソン)、アーティスト仲間(メソッド・マン、ナズ、アリシア・キーズ)らが登場し、彼女がプロジェクト(訳注:低所得者用の公共団地)から音楽業界の頂点に立つまでの経緯について語っている。だが、映画の山場は何といってもブライジ本人だ。曲の中と同じように、カメラの前でも自らの苦悩を率直に語っている。



Translated by Akiko Kato

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