ラウ・アレハンドロがもたらす新たな多様性 ポスト・レゲトンへと突入するラテン音楽の今

ラウ・アレハンドロ(Photo by 90th Shooter)

ラテンポップの新星、ラウ・アレハンドロの最新アルバム『VICE VERSA』が旋風を巻き起こしている。彼やカリ・ウチスによる最近のヒット曲は、メインストリームにおけるラテンポップのサウンドが、レゲトンの長い影から抜け出し、緩やかに変化しだしたことを示唆している。新展開を迎えたシーンの最前線を米ローリングストーン誌が考察。最近すっかりラウに夢中だという若林恵(黒鳥社)に記事を翻訳してもらった。

2021年3月、プエルトリコ出身の歌手ラウ・アレハンドロは「Todo De Ti」を初めてレーベルの担当者たちに聴かせた。レゲトンのビートは、2010年代にスペイン語ポップスを世界化するジェット燃料の役割を果たしたが、アレハンドロの新曲のドラムはフラットでスクエアだった。2拍目と4拍目にアクセントが置かれ、ダンスフロアにおける殺傷力をレゲトンに与えている潜り込むようなシンコペーションはどこにもなかった。さらに「Todo De Ti」は、地元のバーの「80’sナイト」にでもうってつけな泡立つようなシンセの音色で幕を開ける。

アレハンドロをチャート上位へと押し上げた「Fantasias」「Reloj」のメロディックなレゲトンにも似ていない。この曲は「NUニューウェイブ」だった。「Todo De Ti」を初めて聴いたアレハンドロのチームメンバーが驚いたのも無理はない。所属レーベル「Sony Latin」のA&R/マーケティング部門シニア・マネージャーのジョン・エディ・ペレスは語る。「ラウは『こういう曲をつくってみたんだけど、まだ変えられるかもしれないし、うまくいかないことも考えて別の曲も用意してあるよ』といった感じでした。ですから『Todo De Ti』はアルバムに収録されない可能性すらあったのです。私たちは『サポートするよ』と答えたものの、別の曲を用意してもいました。こう言ってはなんですが、この曲がどう受け止められるのか、自信がもてなかったんです」

不安は完全なる杞憂に終わった。「Todo De Ti」は轟くような商業的成功を収め、Spotifyの6月のグローバルチャートでトップ5入りを果たし、米国でも大きな伸びを示した。「あらゆる期待をはるかに凌いで、瞬く間にグローバル化しました」。ペレスは嬉しそうに語る。



アレハンドロの最新アルバム『VICE VERSA』に収録されたこの変化球のパワーポップスを、ラテン音楽業界のアーティストやエグゼクティブは単なるヒット以上のものと捉えている。「時代ごとに新たなトレンドの基準をつくるアーティストが現れます」。ペレスは言う。「ラウがやったのは、まさにそれです」。

アレハンドロと長年の付き合いがあり、共作者として『VICE VERSA』で4曲に参加したアルヴァロ・ディアスは語る。「『Todo De Ti』は、英語圏においてはただのポップソングかもしれないけど、スペイン語圏ではそうじゃない。アレハンドロはこのジャンルで誰もやったことのないことをやり、誰も収めたことのないような成功を収めた」。これによって他のアーティストも「やりたいことが何でもできるようになったんだ」。



メインストリームのラテン音楽に長い影を落とすレゲトンの影響が緩み始めていたさなかに「Todo De Ti」は放たれた。カリ・ウチスの 「Telepatía」は、レゲトンというよりは涼やかな80’sファンクだったにも関わらず、今週のラテンエアプレイチャートで1位を獲得した。「みんなラウとカリの成功を喜んでいます」。Interscope Records副社長のニール・セルーシは言う。「レゲトンじゃない曲を出しても何も起こらない、という状態から、少なくともヒットのチャンスはある、という状態になったのですから」。

Translated by Kei Wakabayashi

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE