ブラック・ミディが濃密に語るカンとダモ鈴木、キング・クリムゾン、カオスな音楽世界

キング・クリムゾンとビル・ブルーフォードへの敬愛

―他のバンドと比較されることについてもう少し質問させてください。今回のアルバムを紹介する文章ではキング・クリムゾンの名前が頻繁に出てきます。制作者自身としては、『Cavalcade』にもキング・クリムゾンの影響は強く出ていると思いますか? それともあまり関連がないように思いますか?

モーガン:キング・クリムゾンは、俺たちがそれぞれ直接的に影響を受けてきたバンドの1つであることは間違いない。マジでやばい。俺の理解を超越した境地にいる(笑)。本当に凄まじいバンドだ。でもその影響は『Cavalcade』だけに表れているわけじゃないと思う。昔から参考にしていたバンドなんだ。とは言ってもリハーサルで「キング・クリムゾンみたいな曲を作ろう」としているわけじゃないよ。ただ、全員にとって影響が濃いバンドを挙げるとするなら、キング・クリムゾン、マハヴィシュヌ・オーケストラ、スワンズ、ボアダムズだと思う。俺たちはバンドだから、音楽の好みが共通している時もあるけれど、逆に、他のメンバーが誰も聴かないような音楽を聴く時もある。だからバンドとしての影響は様々なものがあるんだけど、キング・クリムゾンはクソやばいよ。ただただ最高すぎる!



―では、『Cavalcade』にも影響があるならば、具体的にどの曲のどの部分に影響が表れていると思いますか?

モーガン:いい質問だね。(しばらく考えて)アルバムの曲だと、よく言われているのは、「John L」の中盤で、ギターとベースとドラムで、対位法っぽい感じのポリリズムなパートがあって、その後に音がいきなり止まるんだけど、その部分はキング・クリムゾンの影響が強いとたくさんの人に言われているよ。そうかもしれないね。ただ何度も言うけど、俺たちは別に「キング・クリムゾンならどうするだろう?」と考えながら作曲しているわけじゃないからね(笑)。あとは、このアルバムだと何だろうな…「Ascending Forth」かな。

―それは私も感じました! その辺を詳しく話してください。

モーガン:そう? あの曲はジョーディが書いたんだけど、俺たちがみんなで曲を仕上げていた時は、キング・クリムゾンのメロディックで美しい一面を意識していたと思う(※)。

※筆者注:どちらかといえば『Lizard』や『Islands』を直接的に連想させる優美なパートがある。




モーガン:話が少し逸れるけど、俺は3週間くらい前にビル・ブルーフォードと会う機会があったんだぜ!

―すごい! それはどのような経緯ですか?

モーガン:ポッドキャストの企画だったんだよ。俺のところに連絡があって「対談してみたい人はいますか?」と聞かれたから、ビル・ブルーフォードと答えた。そしたら、その数日後には彼の自宅を訪ねていて話し込んでいたってわけさ。本当に素晴らしい体験だった。作曲のプロセスなどについて話していたんだけど、ビルはブラック・ミディとキング・クリムゾンをよく引き合いに出して話してくれた。すごく良い人だったよ。

【関連記事】プログレ史上最高のドラマー、ビル・ブルーフォードが語るイエス、クリムゾンと音楽家人生

モーガンとビル・ブルーフォードのドラマー対談はTalkhouse Podcastで公開中。フィル・コリンズやビリー・コブハムなどについても語り合っている。

モーガン:ごめん、脱線しちゃったけど何を話していたんだっけ? そう、「Ascending Forth」はキング・クリムゾンの影響が深いところにあると思うね。あとは何だろうな…? 他に何かあると思う?

―特に顕著だったのは「Ascending Forth」ですね。でも前作『Schlagenheim』を聴いた時もキング・クリムゾンみたいだなと思って、それがきっかけでまた聴くようになりました。キング・クリムゾンについてもう1つ聞かせてください。どの時期の作品が好きで、どんなところが好きですか?

モーガン:俺にとっては……うーん、難しい質問だな。一番好きなのは、『Larks’ Tongues in Aspic』(※)に間違いない。色々な意味でぶっ飛ばされる。音楽的にも強烈だし、各パーツの作曲も素晴らしい。各パーツの存在感がすごいんだよ。アルバムが作られた1973年に俺はまだこの世にいなかったけれど、今までにあんなものを聴いたことがある人は誰もいなかったと思うよ。それ以前にもキング・クリムゾンはアルバムを出していて、『Islands』や『Lizard』、『In the Court of…』だっけ?

※筆者注:緻密な作編曲を主体とした初期の活動が1971年の『Island』に伴うツアーで瓦解したのち、リーダーであるロバート・フリップは即興演奏に長けたメンバーを招集(ブルーフォードもここで加入)し新たなラインナップで活動を再開。本作はその開幕を告げるアルバムで、交響曲的な展開構築と集団即興演奏を同時進行的に両立する音楽性が絶賛された。この編成は翌年の『Starless and Bibleblack』および『Red』発表後に解散することになるが、静と動を魅力的に兼ね備えた音楽性はロック史上最強バンドの一つという呼び声も高く、メタルやハードコアパンクも含む様々なジャンルに絶大な影響を及ぼしている。

―『In The Court of the Crimson King』。おっかない顔の奴がジャケットのやつですね。

モーガン:そうそう、そういう作品もあったけど、それらはトラディショナルなプログレッシブ・ロックな感じだった。作曲に関して言えばね。ジェネシスやイエスに近い感じだった。でも『Larks’ Tongues in Aspic』では方向性がガラリと変わって、何と言うか、このバンドの本性が現れたなと思った。アーティストがその真の姿を現す瞬間というのがあって、キング・クリムゾンにとってのその瞬間は『Larks’ Tongues in Aspic』だったんだ。他の例で言うと、プリンスがプリンスというアーティストになったのは『Dirty Mind』だと思う。マイケル・ジャクソンは『Off the Wall』でマイケル・ジャクソンになった。そのアルバム以前にも作品は存在しているんだけど、「このアーティストはこういうことか!」と納得する決定的作品がある。『Larks’ Tongues in Aspic』は俺にとって、そういうアルバムなんだ。



モーガン:とにかく実験的で……でも「実験的(experimental)」という言葉は頻繁に使われすぎているんだよな……本当に実験的なんだよ、あらゆる側面で。ギターのトーンや、メロディ、ドラムのパートなど。ビル・ブルーフォードのすごいところはそこなんだ。ドラムの使い方のユニークさ。彼は話してくれたよ。バックビートをあえて演奏しないでドラムを前面に出すようにしたと。「ドンチャ、ドンチャ」という一般的なビートは誰もがやっているから、ビルは自分でしかできないユニークなことをやろうと考えたらしい。そしてそれを見事にやってのけた。彼が成し遂げてきたバンドを聴けばわかる。イエス、キング・クリムゾン、そしてジェネシス。とにかく俺の一番のお気に入りは『Larks’ Tongues in Aspic』だね。でもビル・ブルーフォードは、1981年にリリースされた『Discipline』が彼の一番だと言っていたよ(※)。彼に一番好きなアルバムについて、俺が質問したんだ。あの時期が一番好きだと言っていた。結構意外だったね。その時のメンバーはビル・ブルーフォード、ロバート・フリップ、トニー・レヴィン、エイドリアン・ブリューで、2人のイギリス人と2人のアメリカ人だったから、それがダイナミックな雰囲気を生み出したんだと言っていた。もちろんその時期のキング・クリムゾンも素晴らしい音楽を作っていて、『Discipline』も良い作品だと思う。『In The Court of the Crimson King』ももちろん最高だ。でもやっぱり俺は『Larks’ Tongues in Aspic』が一番好きで、あの作品でキング・クリムゾンの真の姿が見えたと思ったんだ。

※筆者注:1981年に再結成したニューウェーブ期クリムゾンの第1作。1974年のクリムゾン解散後、フリップはデヴィッド・ボウイやピーター・ガブリエルなど含む様々なアーティストとの共演を重ねており、そこで得た発想や人脈がこの時期の活動の起点となった。7拍子と6拍子が滑らかに絡む「Frame by Frame」や5拍子のタペストリー的交錯が美しい「Discipline」などのポリリズミックなアンサンブルはガムランやケチャを参照したもので、ニューウェーブならではの民俗音楽志向と従来のクリムゾンのクラシック音楽(ストラヴィンスキーやバルトーク、ラヴェルなど)&ジャズ志向が超絶技巧によって完璧に融合。ドン・キャバレロ~バトルスをはじめとしたポストロックやマスロックの手法の礎となった。

Translated by Emi Aoki

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