ハイエイタス・カイヨーテの魔法に迫る 音作りのキーパーソンが明かす「進化」の裏側

ハイエイタス・カイヨーテ、一番右がペリン・モス(Photo by Claudia Sangiorgi Dalimore)

 
ハイエイタス・カイヨーテは2015年の前作『Choose Your Weapon』で一気にブレイクし、日本でも多くのアーティストが彼らのサウンドに言及していた。それは海外でも同様で、アンダーソン・パーク、ビヨンセ&ジェイ・Z、チャンス・ザ・ラッパー、ドレイクらが次々と楽曲をサンプリングし、その知名度は一気に高まっていった。リズムに対する挑戦的なアプローチを筆頭に、誰もが驚くような技術とアイデアを兼ね備えた鉄壁のバンドサウンドが彼らの魅力だった。

そんなハイエイタス・カイヨーテだが、2018年にナオミ “ネイ・パーム” ザールフェルトムが乳がんを患っていることを公表し、治療に専念することを発表。バンドは一時期、活動休止を余儀なくされたが、ネイ・パームが無事に回復したことで活動を再開。アルバムの制作を開始し、ここに新作『Mood Valiant』を完成させた。

ニューアルバムはこれまでの延長線上にある曲もあるにはあるが、サウンド面でかなり進化しているような印象を受けた。進化や進歩というよりはメタモルフォーゼ(変身)とさえ思った。ただ、その大きな変化を読み解くためのヒントが、彼らの過去作にあるのは明らかだ。例えば、『Choose Your Weapon』のあとにネイ・パームがリリースしたソロ作『Needle Paw』を聴けば、新作の中にある声を自在に使ったアプローチは、ソロ作で試してきたことを糧にしているのがよくわかる。

そして、新作の印象を決定づけている不思議な音色や質感、そして、バンドというよりは、録音した生演奏が大胆に編集され、プロダクションの要素も色濃くなったサウンドを聴いたときに、僕はドラマーのペリン・モスがクレヴァー・オースティン名義でリリースしたアルバムの『Pareidolia』との関係を考えた。自身で全ての楽器を演奏し、自分で重ねて、編集し、エレクトロニックとアコースティックが交じり合う不思議な響きを作り出していた『Pareidolia』には『Mood Valiant』に繋がるものがあると僕は感じていた。また、ペリンは以前からアルトゥール・ヴェロカイからの影響を語っていた人でもあった。ヴェロカイへの思い入れはメンバーの誰よりもあるはずだと僕は思った。他にも、まるで70年代の発掘音源のような音像を聴いたときに、来日時にはディスクユニオンを回るくらいのレコード好きでもある彼のセンスが発揮されたのではとも感じていた。アジムスの『Demos(1973-1975)』のような音の悪いざらざらの質感を新鮮に聴かせる『Mood Valiant』はマッドリブからの影響も昇華したプロデューサーでもあるペリンが貢献しているのは間違いないと思った。

だから僕は、ハイエイタス・カイヨーテにインタビューすることが決まったとき、真っ先にペリン・モスを取材相手に指名した。その読みは間違っていなかった。



―2016年に来日した際にはすでに「Chivalry Is Not Dead」など新曲を披露していました。『Mood Valiant』は少なくとも4、5年くらいかけてじっくり作ったものですよね。

ペリン:曲をたくさん作ることは自分たちにとって自然なこと。だから『Choose Your Weapon』も大作になった。でも、あのアルバムでさえも、他と合わないからという理由でアルバムに入れなかった曲がある。それはバンドを始めた頃からずっとそう。すでにアルバム一枚作れるくらいの未発表の曲がある。そういう新曲はなるべくライブで演らないようにしているんだけど、一方で曲を試す場としてはライブは絶好の機会なんだよね。例えば曲の構想はあるんだけど、どう演奏していいかわからないとか、曲の構想がぼんやりしている時というのは、ライブで演奏することで、明確になることがあるんだよね。

―「Chivalry Is Not Dead」の場合はどうだったのでしょうか。

ペリン:かなり変化を繰り返した曲だったね。サビとヴァース部分を別々に作ったんだ。2つの異なる様式というか、異なる表現から成り立っている曲にしたかった。歌詞はたしか曲に乗せて書いたんだったと思う。正直、どうやって生まれたかは覚えていないんだけどね(笑)。でも、イントロのシンセの音がきっかけだったかもしれない。面白い音だと思って、いろいろなアイデアが出てきたんだと思う。曲作りに関しては、ネイが大体書き上げてきたものに、自分たちのパートを加えるだけという時もあれば、ジャムをしながら構築していくこともある。ビートメイカーのようにね。「Chivalry Is Not Dead」の場合はどうだったっけな。



―あなたはこの曲の作編曲に関して、どんなアイデアを出したんですか?

ペリン:ドラム・パターンだね。当初はもっと考え込まれたものだった。ベースの動きを意識してね。基本的に僕と(ポール・)ベンダーが一緒に演奏する際、キックのパターンを合わせることはしない。でも、この曲に関しては、自分のキック・ドラムと彼のベースの動きを意識して合わせることで、曲に勢いをつけることを狙ったんだ。ヴァース部分で自分が出したアイデアはそこかな。他にもサビの部分やアレンジも含めてアイデアを出したと思うけど、どの曲も、「ここ」って明確に示すのはなかなか難しい。メンバーそれぞれが深く関わっているからね。

でも、楽曲に対する自分の貢献の一番わかりやすい例を挙げるなら、レコーディングやミキシングの工程になる。ドラムを叩いている時も、そのことを常に考えているから。特にハイエイタス・カイヨーテの曲の場合、大抵は、ある程度曲ができた段階で、「レコーディングしたらどう聴こえるか」ということを意識する。それによって、音数を減らすとか、弾き方を変えたり、バリエーションをつけたりする。例えば、リハーサル室で思い切り叩くとその場ではうるさく聴こえるかもしれないけど、実際のミックスでは、他の音に埋もれてしまうわけで、思い切り叩けば、曲全体の雰囲気を損なわずに、引き出したい雰囲気をしっかり引き出すことができる。だからバンドの曲のパートを考える時というのは、レコーディングした時にどう聴こえるか、曲を引き立たせるのに何が重要か、といったことを意識している。それによって、自分が何をどう演奏するかが決まってくるよね。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE