ハイエイタス・カイヨーテの魔法に迫る 音作りのキーパーソンが明かす「進化」の裏側

 
ドラムと音作りの秘密を明かす

―ミックスの話が出ましたが、『Mood Valiant』は前作以上にミックスやオーヴァーダブ、ポストプロダクションに関して、実験的ともいえるこだわりやチャレンジが聴こえるアルバムですよね。特に手を加えているのはどの曲ですか?

ペリン:間違いなく「Get Sun」だね。あの曲は本当にいろんなバーションを作った。かなり思い入れのある曲でもあるんだ。自分がよく聴いていた曲を彷彿させる雰囲気があったり、自分のソロ作品を作る時(のマインド)に引き寄せられるような色彩を持った曲でもあって、自分にとってホームグラウンドと思えた曲だ。ハイエイタスの楽曲の多くは、自分にとって未知の世界を探究し、自分の知識やスキルが広げながら、目指しているものを達成するという醍醐味がある。そんな中で「Get Sun」は、自分にとってホームグラウンドに近いと思えるた曲なんだけど、一方で形にするのは難しかった曲でもある。だから、いろんなことを試してみた。ドラムに関しては叩いているんだけど、叩いていないような曲にしたかった。耳に優しいけどノレる曲って感じだね。しかも、ライブっぽい雰囲気を出したかったけど、録音のやり方の影響でミキシングできることの限界がある曲だった。だから、目指しているものは見えているんだけど、自分の手元にある素材で、どこまで何ができるのか、というのを考えないといけなかった。「なるほど。これは難しいな……」と思ったけど、やりがいはあったんだ。目指している音にするための要素が全て揃っていない中で、思い切ったプロセスや工夫を凝らした。どんな曲も思いつく限りアイデアは全て試してみたよ。そのほとんどはボツになったんだけどね。「これじゃない」「まだちょっと違う」という感じで。そんな感じだったね。


ぺリン・モスのドラム演奏をまとめた動画



―さっきドラムの話も出ましたけど、あなたがクレヴァー・オースティン名義で発表した『Pareidolia』では、ドラムの音を最後に録音したり変わったプロセスを試していました。『Mood Valiant』も変わったプロセスで制作した曲はありそうですが、どうですか?

ペリン:あるよ。すぐに思いつくだけで2曲ある。他にもあると思うけど。というのも、ある曲の一部を違うものに録り直すこともしたからね。例えば、「Chivalry Is Not Dead」のミドル・パート。1番のサビが終わったところ。あそこは最初、普通にドラム・パートが入っていたんだけど、それをミックスで大部分抜いて、ウワモノだけが聴こえるようにした。その代わり、ハンド・パーカッションやフルートといった自分の部屋にある変わった楽器を鳴らしているんだ。最初にあったものを抜いて、別の音に差し替えた例だ。

それと「Rose Water」は、みんなで一緒に演奏せずに録った。なぜそうしたかというと、自分の頭の中にあったドラム・サウンドを使いたくて、その音を自分一人の時間にとことん追求したかったから。先に、サイモン(・マーヴィン)とベンダーがクリックを聴きながら演奏して録ったものの上に寝かせる形でね。普段はあまりやらないやり方だよ。と言いつつ、今作ではこの曲だけだけど、『Choose Your Weapon』でも少しやってた。マルチトラックでドラム・パートだけ別で構築していくんだ。自分の頭の中でビートボックス風に聴こえているものを、それを実際にドラムで叩いてみる、という感じ。叩いてみて、ぎこちなくならないように、テクニックの面も気にしながら作っていく。面白いアプローチだよね。あと、「Blood And Marrow」では、曲の大半でRhythm Ace(ヴィンテージのリズムマシン)を使っていて、曲の最後でハンド・パーカッションを叩いて、厚みを加えている。これくらいの小さなドラムを使って、マイクを思い切り近付けることで、大きなドラムのように聴こえるんだ。その手のことをあの曲の最後では色々やっているよ。




―演奏面で大変だった曲は?

ペリン:一番大変だったのは「Rose Water」かな。最初だけね。今は簡単に叩けるようになった。ハイエイタス・カイヨーテの曲はいつもそうなんだ。だから新しい演奏法にいつも挑戦するんだと思う。同じことばかりやっていたらすぐに飽きてしまうからね。(ソロアルバムではすべての楽器を自分で演奏しているように)ドラマー以外のこともこれまでずっとやってきた。この曲に限らず、パーカッションはどれも大変だ。でも、「自分は下手くそだ」って考えを消したら、音楽は自分のありのままを表現するものだから、自分のままでいれば間違いようがない。そう思えれば何だってできる。そうすれば、どんなアイデアだって試すことができる。「今の自分はこんな気分だ」って思えばいい。試しにやってみて、それがどうなるか見てみればいいんだよ。

例えば「Get Sun」の最後の部分はスタジオで、楽器と機材の間を部屋の端から端まで行ったり来たりしながら録ったんだ。演奏してみて、戻って音を確認して、今度はマイクの位置を変えてみて、また演奏して、戻ってまた聴いて、最終的に「音的にはこんな感じで、あとは加工でなんとかなるだろう」って感じになった。そうやってパートを細かく作り込んでいくよりも先に音の色彩を固めていったんだ。「Get Sun」のあの最後の部分はベッドルームでビート作りをするのと同じノリを、ハイエイタス・カイヨーテの曲でもやってみた例だね。思いついたままに作ってみて、他のメンバーがどんな反応をするか試してみようと思ってやったよ。聴かせたら彼らも気に入ってくれて、「いい感じだ」と言ってくれたから、さらに追求していった。

それから即興も多いんだ。自分のパートをレコーディングで演奏する時に苦手だと思うのは、同じアイデアを何度も繰り返すこと。だから「Rose Water」は難しいと思ったんだ。旋律っぽいフレーズを繰り返し演奏するパートなんだけど、同時に感情も込めたくてね。パートを録音する時はそのバランスが難しい。中には簡単にパートを弾きこなせる人もいるけど、そういう人たちは自分を解放して演奏するほうが難しいこともある。自分の場合は、自由に演奏するのは得意だけど、決められたものに沿って演奏するのは難しい。それがハイエイタス・カイヨーテの個性にも繋がっている。ネイは自分と似ているんだ。別世界にすっと入り込める。ベンダーとサイモンのほうが堅実な演奏ができるんだ。ベンダーがベース・パートを演奏する時の安定感は半端ない。しかも毎回だ。サイモンもそう。自分はそうでもないんだよ(笑)。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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