ハイエイタス・カイヨーテの魔法に迫る 音作りのキーパーソンが明かす「進化」の裏側

ハイエイタス・カイヨーテ、一番右がペリン・モス(Photo by Claudia Sangiorgi Dalimore)

 

アルトゥール・ヴェロカイから学んだこと

―『Mood Valiant』は2018年に録音を一旦終えた後、ネイ・パームの治療もあってしばらく休止期間があり、その後、彼女が回復してから再び制作を再開したと聞いています。製作再開後に大きく手を加えて、変化した曲はありますか?

ペリン:何曲かあるよ。「Get Sun」はそうだね。あとは……今作には入らず、今後の作品用にとってあるもので2曲くらい大きく変化した曲がある。録音が終わっていない曲もいくつかあるしね。コロナ禍に入ったのがきっかけで、アルバムを仕上げるのに本腰を入れたんだけど、ミキシングやプロデュースの段階でかなり変化したんだ。その中でも「Get Sun」が最も大きく変わった。ミキシングもそうだし、演奏もそう。アルトゥール・ヴェロカイがストリングスとホーンのアレンジをしてくれたのも大きかった。休止する前にあの曲をスタジオで演奏した時は、ドラムをもっと強く叩いて演奏していた記憶がある。『Choose Your Weapon』的な前ノリ感があった。でもその後、生活の中でいろんな音楽を聴いて、いろんな刺激を受けて、結果ああいう形になった。未完成のまま曲を寝かせて置けば置くほど、自分たちの中でどんどん変わっていくことが多いね。



―ちょうどアルトゥール・ヴェロカイの名前が出ましたが、彼とのコラボレーションは大きなトピックだと思います。なぜオファーしたのか教えてください。

ペリン:それはネイの提案だった。自分からすると雲の上の存在のような人だから、絶対に引き受けてくれるはずがないと思っていた。彼にオファーをしたこと自体が自分でも驚きだ。最も敬愛するアーティストの一人だからね。アルトゥール・ヴェロカイの1stアルバムは間違いなく僕の人生を変えた。自分にとっては、音との向き合い方をガラっと変えてくれた象徴的なアルバムだった。だから彼にアルバムに参加してもらえたのはこの上なく光栄だ。

なぜオファーしたかというと、ネイが強くこだわったからだ。彼女も辛い経験をして、人生観が変わったんだと思う。「人生は一度きりだし聞くだけ聞いてみよう」と彼女が言うので、オファーを出してみたら承諾してもらえたんだ。で、「だったら現地に行って、彼の作業に立ち合わせて貰おう」ということになった。「そんな予算あるの?」って心配もあったけど、「どうにか実現させようぜ」って。実際、なんとかなったというわけ。

―ヴェロカイにオファーを出す時点では、曲はどんな状況だったんですか?

ペリン:すでに自分たちで曲作りも録音も終えていて、ミックスも僕なりに完成させていた。でも、彼の参加が決まって「もっと良くなるじゃん」と思えた。「だったらこっちの方向でとことん追求できる。こういう感じの雰囲気で、こういう色彩でやろう」と別の方向へ舵を切った。おかげで、最初と全く違う曲に仕上がったよ。

―ヴェロカイは「Get Sun」「Stone Or Lavender」の2曲でのアレンジをやっています。彼のホーン&ストリングス・アレンジの特徴はどんなところだと思いますか?

ペリン:やり過ぎないところが魅力だね。少なくとも自分がこれまで聴いた作品ではそう。特にあのセルフタイトルの1stアルバム。音楽を引き立てるアレンジで、ハーモニーが素晴らしく、音の色彩が美しい。僕らはメンバー全員あのアルバムから影響を受けているんだ。あのアルバムを聴けば、彼の脳内で何が起きているのかが聴こえてくる。「そうか、こうやって曲作りをするのか」ってね。しかも自分が一番好きな音楽だ。だから、今回、彼のそんな部分を期待してオファーをしたら、期待通りのものを届けてくれたと思うよ。



―ヴェロカイとの会話やレコーディングは特別な体験だったと思いますが、そこでどんなインスピレーションがあったのか聞かせてください。

ペリン:彼の「プロ意識」が素晴らしかった。これまで見てきたなかで最も効率性を重んじたスタジオ体験だった。あれほど格調あるスタジオで、手腕のあるエンジニアをコンソールにつけて、正確に何人だったかは覚えていないけど……10人編成ほどの弦楽ミニ・オーケストラを、彼は30分で録りきったんだ。必要な全ての音をね。どれも素晴らしい音だった。まずは何より、仕事の速さに感動したよ。

当然、アルトゥール本人と対面したのも、魔法のような瞬間だった。僕らはみんな生身の本人に会えたことが信じられないって感じだったね。人間性も素晴らしくて、凄く腰の低い人で、音にも彼のそんな人となりが表れていると思う。彼の音楽と同じくらい優しい人で、親身になってくれる。素晴らしいオーラを発している人だった。あの空間で自分たちの音楽が聴けたというのも、感慨深いものがあったんだ。最初は少し緊張したけどね。前のミックスを始めにかけたんだけど、スタジオの素晴らしいスピーカーで聴くともの凄い迫力で……(笑)。そこにストリングスを重ねてくれたわけで、その場にいて、みんな感動の連続だった。なかなか言葉では表現し切れない経験だ。個人的には音楽人生のハイライトになったことは間違いないね。

Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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