ルーシー・ダッカスが語る、「暗く悲しいシンガーソングライター」を卒業するまでの日々

ルーシー・ダッカス(Photo by Ebru Yildiz)


ボーイジーニアスでの活動から学んだこと

前回のソロアルバム『Historian』(2018年)のリリースから間もなくルーシーは、フィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカーという気の合うシンガーソングライター仲間とボーイジーニアスを結成した。リリースした6曲入りのEPは広く話題を呼んだ。ボーイジーニアス名義で行った2018年11月のツアーは、ソングライターとしての自分の夢をさらに広げるきっかけになったと語る。また、「暗い女の子」という自らに貼られたネガティブなレッテルを剥がしていく機会でもあったという。「私たち3人は、世間から同じような見方をされていた。だから3人で力を合わせて抵抗するのは、本当に気分が良かった」と彼女は言う。「“暗いなんて言わせない。楽しんで、騒いで、怒りをぶつけましょう”という感じ。たくさんの感情が集約されたの」

わずか1カ月間のツアーだったが、ボーイジーニアスでの活動はルーシーにとって印象に残る出来事だった。「控えめに言っても、人生を変えるような経験だった」と彼女は振り返る。「曲作りの幅を広げ、自分自身の殻を破ってくれた。フィービーやジュリアンと一緒に笑ったりお喋りしたりしているうちに、自分の叶えたい夢が大きくなったのよ」

ボーイジーニアス後のソロツアー中に書き始めた楽曲のアイデアは、ルーシーの潜在意識の奥から湧き出したという。「さあ書こうと思って身構えると、曲は作れない」と彼女は言う。「無意識のうちに出てこなくてはいけない。自分はただのマネキンで、脳内に住む小さな作家が私の身体を表現の場としてフル活用し、クールな曲を作っている、と暗示をかけるの」


テレビ番組『レイト・ナイト・ウィズ・セス・マイヤーズ』に出演したボーイジーニアス。フィービー・ブリジャーズとジュリアン・ベイカーは『Home Video』収録の2曲でヴォーカルを担当している。(2018年撮影、Photo by Lloyd Bishop/NBCU Photo Bank/NBCUniversal/Getty Images)

コンサート会場の楽屋やツアー中など、世界中どこにいても言葉が浮かんできた。「バンドと一緒に滞在しているホテルの部屋を深夜に抜け出して、駐車場のバンの中で曲を仕上げることも多い」と彼女は付け加える。「まるで夢の中にいるかのよう。目は覚めているけれど、さっき見た夢を思い返している感じ」

2019年初夏までにルーシーは、『Home Video』に収録するほとんどの楽曲を書き上げていた。当時の彼女は、多くのコンサートを続けるうちに喉をつぶしていた。「医者には“1カ月間歌わずにおとなしくしていないと、手術が必要なレベルだ”と言われた」と彼女は振り返る。医者の言いつけを守りながらも、同じ年に行われたニューポート・フォーク・フェスティバルのスペシャルステージでドリー・パートンや他のアーティストと「9 to 5」を共演した後、ルーシーはナッシュビルへと向かい、8月にはニューアルバム用のほとんどの楽曲をレコーディングした。

長く彼女のバックを務めるバンドのメンバーと共に、過去のアルバムでも使った馴染みのスタジオに入り、1日2時間ずつのペースで喉を休めながらレコーディングを続けた。ルーシーは、自分がかつてないほどプロデューサーのようなスタンスでレコーディングに臨んでいることに気づいた。前作『Historian』やデビューアルバム『No Burden』(2016年)で彼女は、アコースティックギターの使用を極力避けてきた。自分が「気取ったシンガーソングライター」に分類されるのを嫌ったのだ。ところが今では周囲の見方を気にせず、ピアノまでフィーチャーするようになった。ピアノは、彼女が母親と一緒に弾いた思い出の楽器でもある。「アコースティックギターを持って歌うとすぐに、“アメリカーナのフォーク”だと決めつけられる。でも、私がプレイしているのはロックだから」とルーシーは言う。「それでも今回のアルバムはこれまで以上にノスタルジックで、優しい感じにしたかった。だからフォークギターやピアノの暖かみが必要だったの」



さらに『Home Video』には、より複雑な感情的共鳴を起こすためのアイディアが見られる。例えば「Partner in Crime」ではオートチューンを使い、彼女のリードヴォーカルにフィルターをかけて声を歪ませている。「ティーンエイジャーの頃は、年上の人たちに認められようと自分の歳をごまかしていた」と彼女は告白する。「理由の一つ目は、子どもに見られるのが恥ずかしかったから。二つ目は、歳をごまかすこと自体は恥ずべき行為だけれど、当時はよくあることだったから。三つ目は、周りの大人たちの方が、子どもである私以上にきまりが悪いだろうと思ったから。大人として扱って欲しいという衝動に駆られたのは、私のせいじゃないわ」

「Partner in Crime」のヴォーカルをデジタル処理しようというアイディアは、不完全なヴォーカル・テイクを補おうとしたのがきっかけだった。しかし彼女は最終的に、楽曲のテーマにも通ずるこのスタジオ・エフェクトを気に入った。「認められるために自分を偽るというテーマが、オートチューンに通じるものがある。そういう意味で、この曲をとても気に入っている」と彼女は付け加えた。

Translated by Smokva Tokyo

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