河村隆一が語る、音楽と機械式時計に共通する哲学

時計の魅力を教えてくれた大物歌手とは?

―改めて、ヴォーカリスト・河村隆一の凄さを実感しました。ところで、歳=時間で思い出しましたが、隆一さんは大の時計好きなんですよね。時計にハマったきっかけを教えてください。

西城秀樹さんにブライトリングの1940年代ぐらいのヴィンテージの時計をいただいたのがきっかけです。その時に「お前もある程度の年齢なんだから、大人の男性として良い時計を一本買わなきゃダメだよ」と言われて、時計を物色し始めました(笑)。当然一本で終わらず、たくさん欲しくなっていろんな時計を集めていって……それが27、28歳ぐらいですね。

―時計好きじゃない人からすると、時計は1本あれば十分だし、今だったらスマホを持っていれば時間はわかりますよね。時計の面白さはどのあたりにあるんですか?

時計だけじゃなくお酒もですが、自分の音楽に対するフィロソフィーと重なる部分があって好きなんです。

―哲学が重なる、とは?

人が情熱と、時間をどれだけ費やしたかが、しっかりとプライスになっていくのが、実は時計の世界なんです。音楽も同じで、例えばレコーディングの時、PCで作った音にカラオケを歌うように歌を入れれば、もしかしたらアルバム1枚数、十万円の製作費で作れるかもしれない。でも、各楽器の名プレイヤーを呼んで、エンジニアを立てると、当然、制作費は数百万円になっていきますよね。スタジオも大きな所を借れば、すぐに数千万円にもなるわけです。ただし、CDの場合は、売値が3000円前後という限られた金額です。ですが、時計はブランディングができて、ファンがたくさんついていれば、その時計を作る本数は極端に減りますが、“製作に時間も手間もかかってるから500万円です”“これは300万円です”ということが成り立つんですよ。

―なるほど。

生産性は悪くても、作ったものに対してきちんと対価を払う。音楽で言うと、生の音で、アナログで録っている=価値になるということが、時計の世界では音楽の世界よりも先に起こっているんです。僕はどちらかと言うと、そういうことを音楽でもやっていきたいと思っているので、すごく共感したんです。時計のベルト一つをとっても、ステッチを人間が縫うのと機械で縫うのとだと、もちろん機械のほうが安いですよね。しかも人間が縫うと不揃いなものもでてくる。人間がやることにはいちいちお金がかかっていきますが、そこにちゃんとした対価を払うのが実は機械式時計の世界なんです。

―確かにそういう音作りに対価を払うシステムは、音楽業界にはないですね。

ヨーロッパの機械時計工場を3軒ぐらい見にいったんですよ。ドイツやスイスなど、いろいろなところへ行ったんですけど、どこの工場でも「この時計は一人の時計師が4カ月かかって完成させるので、年に12本しか生産できない」というような話を聞いたんです。そんな時計が世の中にたくさんあるんですよ。一方で、もう少し安価……と言っても価格は高いですが、例えば「この時計はラインで作っているので1日に100本生産できます」という工場も見てきました。それが良い悪いではなくて、生産性が悪くても職人が一本一本、本当に真心を込めて造っているものに僕は惹かれるんです。音楽だと、例えば「1968年のストラトキャスターじゃないと、この音は出ないんだよな」とか言ってほくそ笑んでるところに、マーケットのバリューが付くかっていうと、ちょっと微妙なところですよね(苦笑)。でも、僕は音楽家だから、本当に良いと思って音を追求するところに命もお金もかけたい。それを時計の世界の人たちはやっている。そこが一番時計に惹かれたところかもしれないですね。

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