なんでもないような光景が、156年前に終わったはずの奴隷制度を想起させたと思う。

息子を撮った写真に写っていたナニーとベイビーですが、コラムの内容どおりだったので切り出しました。(Photo by Gen Karaki)


顔馴染みになるうち、ナニーのひとりが私に言った。「アジア人ってだいたい親が迎えに来るよね。なんか不思議~」。いやこっちはナニー雇う余裕なんてないから自分で来てるだけなんだけど。

たまに仕事の都合がついたりナニーがお休みだったりして、白人の親御さんが迎えに来ることがある。話してみると、いかにも資産家って感じの人はいなくて、共働きのスペシャリストかエグゼクティブばかりだった。Graduate(院卒)なことが多い。となると世帯年収は20~40万ドルってとこだろうか。ナニーの年収は平均4万ドルと言われているので、収入の1~2割を突っ込んで、そのぶんバリバリ稼いでるというわけだ。

言うまでもないけれど彼らは、全米でももっともリベラルな街のホワイトカラーだ、差別意識なんてまずもって持ち合わせない。ただ高学歴な白人どうしが結婚して、キャリアを守るために家事負担をアウトソーズする必要があり、派遣会社に連絡したらやってきたナニーが有色人種だったっていう、ただそれだけ。別に奴隷制のバトンを未来に渡してやろうなんて微塵も考えたことはないだろう。けれども。

以前書いたように私は黒人教会に通っていた時期があり(いろいろあって今は行っていない)、そこに通ってくる信者さんたちの多くは、決してサラリーの良いとは言えない仕事に従事していた。女性ならスーパーのレジ打ちとか、ホテルのベッドメイキングとか、日本ならパートさんって言われるような仕事。ナニーもそのうちのひとつだ。

彼女らと話していて感じたのは、私が勝手に想像していたよりだいぶ、被差別感情がないことだった。生まれたブロックの先輩も、高校を卒業したらだいたい、掃除かメイドかスーパーの仕事。ママもお姉ちゃんもそうだし、私もそう。ムカつく同僚はいるし暮らしは楽じゃないけれど、でも仕事があることには感謝してる。とか、そんな感じ。雇用されてる側だって、奴隷制を再生産させられてるなんて意識は持ち合わせていない。当たり前のことをしているだけ。……けれども!!

40を過ぎてから、何の縁もなくポコっとアメリカにやってきた私は、いまでもエイリアンとしかいえない立ち位置で暮らしているけれど、ほんとは街やみんなの当たり前に溶け込んで、もっと居心地よく過ごしていたいし、早くそうなったらいいと思っている。ただ寄る辺ないエイリアンだからこそ抱くことのできる違和感とか、視点みたいなものもやっぱりあると思っていて、いまはそれを大事に取っておきたいような気持ちにもなっている。



唐木 元
ミュージシャン、ベース奏者。2015年まで株式会社ナターシャ取締役を務めたのち渡米。バークリー音楽大学を卒業後、ニューヨークに拠点を移して「ROOTSY」名義で活動中。twitter : @rootsy

◾️バックナンバー
Vol.1「アメリカのバンドマンが居酒屋バイトをしないわけ、もしくは『ラ・ラ・ランド』に物申す」
Vol.2「職場としてのチャーチ、苗床としてのチャーチ」
Vol.3「地方都市から全米にミュージシャンを輩出し続ける登竜門に、飛び込んではみたのだが」
Vol.4「ディープな黒人音楽ファンのつもりが、ただのサブカルくそ野郎とバレてしまった夜」
Vol.5「ドラッグで自滅する凄腕ミュージシャンを見て、凡人は『なんでまた』と今日も嘆く」
Vol.6「満員御礼のクラブイベント『レッスンGK』は、ほんとに公開レッスンの場所だった」 
Vol.7「ミュージシャンのリズム感が、ちょこっとダンス教室に通うだけで劇的に向上する理由」
Vol.8「いつまでも、あると思うな親と金……と元気な毛根。駆け込みでドレッドヘアにしてみたが」
Vol.9腰パンとレイドバックと奴隷船」
Vol.10「コロナで炙り出された実力差から全力で現実逃避してみたら、「銃・病原菌・鉄」を追体験した話」

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