フライング・ロータスが『YASUKE』を語る 黒人がアニメを愛し、音楽を手がける意味

フライング・ロータス(Courtesy of Beatink)

織田信長には弥助(やすけ)というアフリカ系の家臣がいた。彼の存在は日本でそこそこ知られている程度だと思うが、ハリウッドで映画化も進められるなど、海外では大きな注目を集めている。そして、彼の伝記をもとにしたNetflixのアニメシリーズ『YASUKE -弥助-』も先ごろ配信開始となったが、これがまたぶっ飛んだ内容で驚かされてしまった。

ここで音楽を担当しているのがフライング・ロータスだ。実際にアニメ本編を見てみると、彼はただ単にスコアを手がけただけでなく、作品全体に影響を与えているように思えてくる。フライローやサンダーキャットが嬉々として話してきた、日本のアニメや映画を思い起こさせるような要素も随所にある。それでクレジットを確かめると、フライローは「音楽&エグゼクティブ・プロデューサー」と位置付けられていた。Twitterのアカウント名も気づいたら「YASUKE」になっている。

『YASUKE』のサウンドトラックは単体でも素晴らしい内容だ。しかし一方で、全6話の本編を鑑賞し、それから改めてサントラを聞き直すと、ストーリーへの思い入れがサウンド面にかなり反映されていることも伝わってくる。それだけフライローがアニメ全体に深く関わっているのであれば、そもそもアニメの話を掘り下げない限り、サントラの真価も見えてこないはずだと俺は考えた。

このインタビューは「サントラについて掘り下げる」というのが主題にはあるが、そのためにアニメの『YASUKE』をたっぷり語ってもらっている。結果、フライローの人柄や思想みたいなものが、普段のインタビューとは異なる形で浮かび上がる内容となった。とりあえず、フライローのファンなら『YASUKE』は見ておくべきだろう。想像以上に彼の比重が大きいアニメだから。



―(フライローがZoomミーティングに入ってくる)こんにちは。

フライロー:ヘイ、今日はよろしく。

―なんかノイズがあるみたいだけど、大丈夫ですか?

フライロー:今、運転中なんだ(笑)。でも、ハンズフリーだから大丈夫だと思うよ。

―じゃあ始めましょうか(笑)。アニメ『YASUKE』の構想を聞いて、実在の弥助という人物の存在を知って、最初にどんなことを考えましたか?

フライロー:オファーをもらって即OKしたよ。やらないわけないだろ、ふざけんてんのかって感じでノリノリだった。弥助という人物に関しての情報は少なかったんだけど、だからこそ興味を惹かれたし、インスパイアされた。オファーが届いた時期もパーフェクトで、パンデミックの最中だったから俺も時間があったしね。

―『YASUKE』ではエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていますが、具体的にどんなことをやったのでしょうか?

フライロー:最初の話をもらった段階で、制作チームからもらったストーリーはいかにもなバイオ(グラフィ)・ピクチャーって感じだった。それはそれでいいんだけど、アニメにするんだったら「これでいいのかな」と思わなくもなかったので、俺からいくつかのアイデアを出したんだ。『YASUKE』の世界観とか、キャラクターを増やすとか、彼らの能力を増やすとか。そういった提案を通じて、(主人公の)弥助自身の存在感を膨らませていくことに俺は貢献していると思う。

―どういうキャラクターや能力を加えたんですか?

フライロー:咲希は俺のアイデアで生まれたキャラクターだ。咲希の母親の一華、闇の大名もそうだね。その3つは俺が作り出したキャラクター。プロットの部分で言えば、弥助が咲希を守るっていう部分も俺のアイデアなんだよ。それに弥助の過去と現在が出てくるんだけど、そのストーリーラインの流れも俺が考えたものだ。

―ストーリーにおける重要なアイデアをかなり出したってことですね。

フライロー:そうだね。脚本やセリフは書いてないけど、ストーリーの部分にはかなり関わっている。



―『YASUKE』はヒーローとヒロインが悪を倒して平和に導くストーリーの中に、様々なメッセージや文脈が入っていて、細部を見ればかなり複雑でもあります。その物語のために作られたあなたの音楽の多くも、単純な喜びや悲しみや怒りではなく、それらの中間だったり複数の感情を含んでいたりする。音楽に関して、どんなことを考えながら作ったんでしょうか?

フライロー:シンプルに聞こえるかもしれないけど、ストーリーを追いながら、そのストーリーが伝えるものを音楽でも伝えようとしただけなんだよ。目で見て感じたものをそのまま音に置き替える。もしくは、目で見て感じた自分の感情を、音でリプレゼントするという感じ。実際に目で見ながら作業するのは楽しかったし、すごくやりやすかった。だから、ヴィジュアルに導かれるままに音を作っていくことができた。

―劇中での弥助は強くて思慮深くて優しいヒーローとして描かれています。でも一方で、彼は完璧なヒーローではなく、常に悩み、葛藤していて、弱さも見せている。弥助のそういった部分についてはどう思いますか?

フライロー:とにかく複雑なキャラクターだよね。いいやつだけど、あまりにも苦労してきたし、いろんなものを見過ぎてしまったから、そこから逃れるためにアルコールから逃げてしまったり。弥助が最初に登場してきたときの印象は、あまりに打ちのめされすぎて、自分の殻に引きこもっていたんだろうなって感じだからね。

―そんな弥助のためにあなたが作った音楽も、二面性もしくは多面性が聴こえるような曲になっていると思います。どんなやり方で弥助を表現しようとしましたか?

フライロー:俺が追求したのはメロディ。しっくりくるメロディを探る中で聴こえてきのが今回の音楽だ。あとはサウンド。もちろん苦悩も伝わってくるんだけど、それとともに勝利感(Triumph)みたいなものもサウンドの中に込めたいと思っていた。その両方が共存するようにしなければと考えていたね。ペインとグローリーを共存させることを考えながらメロディーを追い求めたんだ。(映画のシーンに合わせて)スコアを書き始めたら、すごく悲しみをたたえていたり、取りつかれるような魅惑的な響きが生まれてきたんだ。このスコアが持っているエッセンスを、俺が手掛けることになっていたテーマ曲などにも活かしたいし、活かさなきゃいけないよなと思いながら作っていた。

―今回のスコアに影響を与えた音楽は?

フライロー:ヴァンゲリスだね。フィルムのスコアをシンセサイザー1台で表現している。それを俺がやってみたらどうなるだろうと考えた。実際、いくつかトライしてみたんだけど、あのアプローチはかなり好きなものだったね。『ブレードランナー』『アレキサンダー』のスコアも聴いてみて、ヴァンゲリスが実際に戦闘シーンでどんなことをやっていたのかチェックしたりしたよ。あとはYouTubeでビートミュージックをチェックしたりもしたかな。ただ、せっかくアニメの音楽をやることになったのに「『サムライチャンプルー』っぽいね」「『アフロサムライ』っぽいね」とか言われたら俺がやる意味がない。人は比較したがるものだから、比較されてもいいようにオリジナルなものを作ったつもりだよ。


Translated by Kazumi Someya

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