フライング・ロータスが『YASUKE』を語る 黒人がアニメを愛し、音楽を手がける意味

フライング・ロータス(Courtesy of Beatink)


黒人としてアニメの仕事をする意味

―『YASUKE』第2話で、信長が光秀に「過去に捉われていては未来はない」と語るシーンがありました。でも、そのすぐあとに、弥助が夏丸に「昔を大切にするからこそ未来がある」と告げるシーンもある。『YASUKE』にはこんなふうに「異なる考え方ではあるけど、それぞれの立場や場面においてどちらも正しい」状況が何度も出てくるのが印象的でした。

フライロー:そう、2つのストーリーが同時進行しているよね。ひとつはアウトサイダーの物語、もうひとつはその時の状況に適応しようとする人間の物語。ひとつはアウトサイダーだから世界にまるで馴染めないんだけど、その中でなんとか対応しようと踏ん張る人の話。もうひとつは何とかこの状況に合わせて生きていこうという人の物語だ。

アウトサイダー側の話としては、そこでは自分は受け入れられてもいないし必要とされてもいない。そんな状況の中にいながら、それでも人を守ろうとすること。その“守ろうとする思い”を、俺はすごくパワフルだと感じたんだ。それがその人にとっての正義、つまり「ドゥ・ザ・ライト・シング」なんだと思う。自分がうまくハマらない状況に置かれた場合、人はひねくれたり、シニカルになったりする。そうじゃなくて、それでも人を守ろうって思うことができる。その強さみたいなものを弥助には感じたんだ。

―『YASUKE』を見ながら思ったのが、あなたの音楽には信長が言ったような“過去や前例に囚われない”部分がある一方で、弥助が言ったような“過去を大事にしてそこから学んでいる”側面もありますよね。例えば、『Flamagra』にはあなたらしい型破りな部分がある一方で、あなたは音楽理論を勉強し、過去の音楽から学ぶようになったとも語っていた。あなたの中には信長の大胆さと弥助の慎ましさの両方がある、そんなふうに思ったんですが。

フライロー:そうだね。そもそも弥助って人物にもいろんな面があると思う。弥助と今の自分を重ねるとするなら、黒人としてアニメ業界で仕事をしている部分が重なるんじゃないかな。これってかなり新しいことだと思うんだよ。黒人である自分がこういうアニメの仕事を任されて、それをこなしていくのはある意味で弥助と重なる部分だ。もちろんアニメの世界にはすでに敷かれている道があって、そこには既存のシステムがある。俺はある程度そこに合わせながらも、これまでにない新しいものを作っていきたいし、その中で自分のことを証明したいとも思う。そのためには本当にいいものを作らなきゃいけないという思いもあった。そこは弥助と通じるところだと思っている。



―第4話で弥助が「これからも守らせてもらうからな」と言ったあと、咲希が「お互いに守るってのはどう?」と答えるシーンがあります。先ほどあなたも話していたように、“誰かを守る”ことはこの作品の重要なテーマになっていますよね……あれ?(フライローがZoomから退室するが、しばらくして戻ってくる)

フライロー:ごめんごめん。今、家についた(笑)。車を降りて準備してるから、ちょっと待ってね。

―ごゆっくり(笑)。質問は聞こえてました?

フライロー:OK、4話だよね? 俺がこのストーリーで重要だと思ったのは、女性のキャラクターが自分で自分の荷物を背負って歩き、何かあったら自分で戦い、自分でやり返すという部分だ。自分が関わる作品に登場する女性は、何かあった時に立ち向かえない人ではあってほしくなかった。今回の作品では咲希だけじゃなくて、咲希の母親も戦っている。俺が言いたいのは自分の方からバシバシ攻撃するってことではなく、何かあった時に自分を示せる人、戦い返せる人、そういう人であってほしいって意味だね。そんな女性の存在は、侍の時代という設定ではサプライズ要素でもある。でも、そういうサプライズ要素を持った女子が物語の中にいてほしいと思っていたし、そういう人がいることで話が面白くなると俺は思ったんだ。

―そういった要素を音楽でも表現しようとしているわけですよね?

フライロー:そこが面白いところだ。咲希はあくまで子供だから、無邪気さみたいなものは残さなきゃいけない。それと同時に彼女のパワフルさも表現しないといけない。そこを音楽で表現することは自分にとってのチャレンジだった。その折り合いをつけるスウィートスポットを見つけるのがすごく難しかった。少女が出てくるときには似つかわしくないサウンドもあるわけだよ。そこは自分にとっても面白かったポイントだね。



―サンダーキャットに以前インタビューしたとき、エヴァンゲリオンのシーンを引き合いに出して「俺とフライング・ロータスが一緒に音楽を作る際は完ぺきにシンクロしている感じだ」と言ってました。あなたも似たようなことを言ってましたが、弥助と咲希のコンビネーションは、まるであなたとサンダーキャットのコラボレーションみたいに以心伝心ですよね。

フライロー:そうなんだよ(笑)。俺とサンダーキャットが一緒になると、いい感じに物事がフロウして、自然にフィットしていくんだ。俺らはお互いを必要とし合っていて、共に学び合い、一緒に成長している。だから、それはいい喩えだね。



―オープニングテーマ「Black Gold」の歌詞はサンダーキャットが書いていますよね。『YASUKE』の本質を簡潔に記した素晴らしい内容ですが、あの曲はどんな感じで作ったんですか?

フライロー:あいつがあまり時間が取れなかったし、自粛中だからいつもと状況が違っていて、実はそこが難しかったんだ。折を見て、可能なときにだけ参加してもらった。最初からテーマ曲には必ずあいつの声が必要だとは思っていた。それに以前から「アニメのイントロみたいなことをやりたいよな」っていうのは話していたんだ。だから、この話が来た時にチャンスだと思ったし、サンダーキャットに連絡したらすぐにやると返ってきたよ。だから、あいつは俺が何かを言う前から、何をやるべきわかっていたんだ。

―あの歌詞に関しては?

フライロー:あいつがすべて書いてる。俺は何も言ってないよ。でも、完璧だったね。

Translated by Kazumi Someya

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