細美武士とTOSHI-LOWが語る、the LOW-ATUSが体現するフォークの世界

the LOW-ATUS:左から細美武士(the HIATUS、MONOEYES、ELLEGARDEN)、TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)

細美武士(the HIATUS、MONOEYES、ELLEGARDEN)とTOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)によるバンド、the LOW-ATUS。3.11以降の被災地の支援活動を通して結成されたthe LOW-ATUSが3.11から10年の今年、ついに1stアルバム『旅鳥小唄』をリリースする。全編日本語詞による本作は聴く者の心を確実に揺さぶる傑作だ。アルバム、コロナ禍、震災から10年、そんなキーワードで二人に話を聞いた。

―the LOW-ATUS、待望の1stアルバムは、結成10年というタイミングよりもコロナ禍がトリガーになったのですか?

細美:「通り雨」が最初にできたんだよね。でも、ロウエイ(the LOW-ATUS)の曲を書こうと思って書いたわけじゃなかったんだっけ?

【動画を見る】the LOW-ATUS「通り雨」ミュージックビデオ

TOSHI-LOW:ロウエイの曲だよ。なんとなくロウエイだなと思って。一昨年、ワンフレーズポロっと出たの。その時はいつかレコーディングしようね、みたいなノリだったんだけど、コロナになったり、あとみーちゃんが忙しくなったっていうのもあって。

細美:俺はMONOEYESが忙しかったし。

―それでこのタイミングになった、と。コロナ禍の世界を歌った曲もありますね。夏祭りの景色を歌った曲がとてもよかったです。

細美:「空蝉」ね。いいよね。

―何気ない夏祭りの景色が描かれていますが、なんだか遠く懐かしく感じたし、今年もあの景色はないんだなぁ、と。

細美:子どもの頃、お祭りの出店がずらっと並んでいる境内がすごい好きでさ。まぁ嫌いな子どもはあんまりいないだろうけど(笑)。綿菓子が吊られている感じとか……最近ああいうの見てないよなって。

―元々なくなりつつあった景色ですが、コロナがダメ押しになりましたね。コロナという言葉に接して1年以上が経っていますが、現状をどんな風に感じていますか?

細美:ライブができないのは、ミュージシャンとしてはぶっちゃけ死活問題だよ。でも、俺は配信があんまり好きじゃなくてさ。YouTubeでライブを収録して流したりするのって、民放のテレビがやってたこととあんまり変わらないじゃん。俺たちみたいなミュージシャンは、本来はわざわざ体と時間を使ってライブハウスに来てくれないと辿り着けなかった世界の住人だったわけだけど、それがいわゆるYouTubeみたいなテレビ的なものに、コロナをきっかけにすり替わっていっちゃうと嫌だなっていうのがあって。音楽の中には敢えてマスに対して発してない音楽もあるわけで。俺が作っているのはそういう音楽だから。そんな世界が、コロナのせいであっさり配信とかテレビ的なものに変わっていくのに、すごく抵抗感がある。だから、俺は配信ライブが安易な代替案になるのには乗らないでいたいと思ってる。中には、もともとテレビにだって出たかったけど、前は無理だったのがコロナ禍とかYouTubeの流行とかで誰でも無制限に露出できるようになったことを喜んでる人もいるだろうけどね。でも、それだと俺は、何でこれまであんなにいろんなことに抵抗してきたのかわからなくなっちゃうなって思ったんだよね。コロナだからって、主義主張ややり方を軟化させたくない。そんな風に改めて自分の中にあるいろんな目線を再確認するって意味では、すごくいい時期を過ごしてると思ってる。

―TOSHI-LOWさんはどうですか?

TOSHI-LOW:なるようにしかならないじゃん。乗ったり抗ったりしながら自分たちがやりたいことをやっていくのは、別にコロナになったから始まったわけじゃないし。みーちゃんが言うようにさ、大衆ウケを狙ってやっているものでもないから。そもそもクラスでバンドが好きな人なんて少数派だと思ってやってきてるし。しかも、こういう偏った音楽でしょ。けど、画面じゃ伝わらない肉体が宿る音楽はなくならない。同じところにいて、同じ空気を触れ合わすことでしか表現できないことだから。ただ、コロナの収束までにはまだ時間がかかるから、確かに形が変わっちゃう部分はあるだろうなとは思うよね。

細美:昨日、喩え話を思いついたんだけどさ、俺らが人生をかけて寿司に取り組んでいる寿司職人だとするじゃない。「マグロが売り切れちゃったんで、アボカドを握ってください」って言われてる感覚って言ったら伝わらないかな、配信やってくれっていうのは(笑)。「ごめんなさい。アボカドは寿司のネタだと思ってないので握れないです」って言って消えていく寿司職人もいるだろうし、「マグロが獲れなくなるんだったら、アボカド握るか」ってヤツもいるだろうし。俺は、「じゃあ、いいや」って感じだね。アボカドは握らないわ。マグロが獲れたらまた寿司作りたいなって感じかな。

TOSHI-LOW:じゃあそれまで何するの? テイクアウトもしないの?

細美:テイクアウトもしない。お米を仕入れる金があるうちは、お米の炊き方とかを追求しておく。次に握る時のために。それでいうと俺たちはその間に曲を作ったりできるから、それをいっぱい蓄えておけばいいんじゃないの?って感じでやってる。

TOSHI-LOW:高円寺に牛丼太郎っていう牛丼屋があってさ、狂牛病問題で牛丼が出せない時に何をしたかっていうと、牛丼に豚肉を混ぜたの(笑)。天才!って思ったよ(笑)。豚丼をやろうって発想じゃないんだよ。混ぜちゃったの。そういう“やっちまえ”っていう発想が嫌いじゃないんだよね。庶民が生き抜くための発想。

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