ジャクソン・ブラウンが今こそ語る、アメリカ社会と環境問題への危機意識

ジャクソン・ブラウン(Photo by Nels Israelson)


ローレル・キャニオンの仲間と育んできたもの

―随分前から、あなたの楽曲はアメリカ社会への疑問がテーマになっているように思います。移民、暴力、人種差別ーーあなたの友人であるブルース・スプリングスティーンや、もしくはスタインベックが実践していたように、個人のストーリーから出発して、もっと大きなテーマを扱おうとしているように映ります。

ブラウン:その通りだと思うよ。今回のアルバムの中に「ザ・ドリーマー」という楽曲がある。これはユージン・ロドリゲスと作った曲。歌詞の内容は、子供の頃にアメリカに移住してきた女性が、この地で働き、家庭を築き、それなのにばかげた移民政策のせいで「国へ帰れ」と追い出されるというものだ。

アメリカは移民のおかげで発展してきた。彼らがなんとかして、よりよい生活を送ろうと努力をしてきた結果、この国は前進したんだ。移民の人々がもたらした財産から目を背けるのは間違っている。移民の気持ちが、僕にはとてもよくわかるんだ。なぜかというと、幼少期をLAの東部で過ごしたから。この地域にはメキシコからの移民が多く住んでいて、彼らを間近に見ながら育ってきたんだ。今もこの状況は変わっていない。移民問題を他人事として扱うのをやめることから、社会は変わっていくことができると信じている。


ジャクソン・ブラウンは70年代初頭から、彼の世代の複雑な心理を歌い上げてきた。

― あなたの楽曲には、ある種の憂愁、過ぎ去っていく時間、若いころの夢の行方などが盛り込まれているように感じます。「マイ・クリーヴランド・ハート」の歌詞に“ずっとまやかしの線の上を歩いてきた/ 実際の現実と/ 見かけの世界の間に引かれた”とありますが、これについてはいかがですか?

ブラウン:「マイ・クリーヴランド・ハート」はデビュー曲の「ドクター・マイ・アイズ」とそんなに変わらないんだ。デビュー曲が出たのは40年も前だけど、今も相変わらず人生について、若いころの無邪気さがもうない、といったことを歌っている。こういった気持ちは多くの人が抱くものだけど、でも実際には、人はそうは変わらないような気がするんだ。人生というものは真剣に向き合うだけでなく、ときに少し距離を取ったり、幻滅や悲しいことも受け入れるようにしなければ、とても耐え難いと思う。君がさっき指摘してくれたように、僕は個人的な物語から歌詞をスタートさせることが確かに多い。でも、個人的でないことを歌うときもある。他人の気持ちに寄り添い、彼らの人生を変えることもできると思っているよ。



―「ヒューマン・タッチ」は素晴らしいバラードで、とても勇気づけられる曲ですね。レスリー・メンデルソンという、若くてインパクトのある女性アーティストとデュエットされています。

ブラウン:レスリーと出会ったのは、映画監督のポール・ハギスが紹介してくれたのがきっかけだ。彼はちょうど『5B』という映画を撮っている最中だった。エイズが猛威を振るい始めた頃に、(サンフランシスコで)何百人もの死にゆく患者たちの面倒をみている看護師たちを描いたドキュメンタリー・フィルムだ。当時、レスリーとパートナーのスティーブ・マクイーワンは「ヒューマン・タッチ」の録音を進めていたところで、僕にも参加しないかと声をかけてくれた。これはマジカルな経験だったね。サビの仕上げを手伝い、歌詞を少し手直しさせてもらったけど、僕の感性を少し付け加えた程度で、レスリーとスティーヴが曲の大半を仕上げたんだ。この曲は心から尊敬する二人との、友情のはじまりとなった素敵な贈り物だよ。



―ローレル・キャニオンで一緒に活躍したミュージシャンとの関係は、現在も続いているのでしょうか?

ブラウン:彼らのことはいつも身近に感じている。僕の人生の一部だね。グラハム・ナッシュと僕は、今でもM.U.S.E.やその他のプロジェクトを通じて、アメリカの社会正義のために尽力している。彼とデヴィッド・クロスビーは、僕の最初のアルバムで歌ってくれた。二人の貢献ぶりは忘れられないね。ただ、みんな住んでいる地域が違うから、そう頻繁に会うことはない。グラハムは東海岸に住んでいて、パンデミックの前に、気候変動による難民やメキシコ国境で分離された家族のためのコンサートで一緒に演奏した。

これらの問題は、アメリカ政府の犯罪的ともいえる対応が原因となっている。僕たちのように、アメリカがもう少し良かった時代を経験している者たちにとって、今の時代は幻滅を覚えるものとしか言いようがない。でも、先述したようなコンサートがきっかけとなって、他のアーティストと交流が生まれて、レコーディングに招き合ったりもしている。これはかつて、(ローレル・キャニオンで)よく起きていた光景と似ているような気もするんだ。昔も今も変わらないことはある、ということかもしれないね。

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ジャクソン・ブラウン
『ダウンヒル・フロム・エヴリホェア』
2021年7月23日(金)発売
定価¥2,860(税抜価格¥2,600)

【完全生産限定盤】
3面紙ジャケット仕様(FSC認証紙使用)
高品質Blu-spec CD2仕様(日本盤のみ)
歌詞・対訳・解説付(日本盤のみ)
*対訳:中川五郎
*解説:五十嵐 正

ストリーミング(予約):
https://jacksonbrowne.lnk.to/DownhillFromEverywhereRS

Translated by Keiko Tamura

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