ダニー・エルフマンが語るロックと映画音楽、ディストピア的世界観とノイバウテンへの共感

 
映画音楽にまつわる秘話とポリシー

―ロック/ポップから映画音楽に移行するのは、どの程度難しいことでしたか?

ダニー:とてつもなく困難な作業だったよ! “元バンド・ミュージシャン”として映画音楽に取り組むのではなく、映画音楽の作曲家として最初からリセットした。あらゆることを学び直したんだ。私は約10年間、オインゴ・ボインゴと映画音楽を並行してやろうとしてきたんだ。バンドとして活動しながら、映画2作のスコアを手がけようとした。どちらもおろそかにせず、あらゆることを学ぼうとして、気が休まる瞬間がなかったよ。でも、バンドでも映画スコアでも、自分自身を高めていきたかったんだ。

―あなたはポピュラー音楽のアーティストから映画音楽家に転向したコンポーザーの最初の1人ですが、あなたの後に映画音楽の世界に入ってきたトレント・レズナーやジャンキーXLについてはどう考えますか?

ダニー:トレントの音楽からは同じ意思を感じるね。私は90年代から映画音楽で何度となく「その部分、ナイン・インチ・ネイルズっぽく出来る?」「出来ないよ」というやり取りをしてきたんだ。だからトレント・レズナーが映画音楽の世界に来たとき、どうするのか興味があったんだ。トレントも私と同様、“ロック・ミュージシャン”の帽子を取って、新鮮なアプローチを取っていた。とても感銘を受けたよ。彼がアッティカス・ロスと一緒にやった映画音楽は、どれも素晴らしい。ジャンキーXLのことは、あまり判らないんだ。彼がロック時代にどんな音楽をやっていたのか、オーケストラ音楽のバックグラウンドがあるのか、知らない要素が多い。今、私がリスペクトしているのはジョニー・グリーンウッドなんだ。彼は自らのロック・バンドとはまったく異なったアングルから映画音楽にアプローチしている。「ああ、レディオヘッドのギタリストね」と思う瞬間はまったくない。それだけではない。私がトレントやジョニーを尊敬するのは、彼らが純粋に優れた作曲家だからだよ。彼らの音楽は、映画をより激しく、哀しく、楽しくしてくれるんだ。

―ちなみにコーチェラではあなたが書いた『シンプソンズ』のテーマ曲も演奏される予定でしたか?

ダニー:うん、新しいアレンジでやる予定だったんだ。きっとみんな驚いて、楽しんでくれたと思うよ。次のライブでプレイするとき、サプライズにしたいから、どんなアレンジかはネタバレしないけどね!

―『シンプソンズ』にはしばしばミュージシャンがゲスト出演していますが、先日の放送回でモリッシーが自己愛・肉食・レイシストとして描かれたエピソードについてどう思いますか?

ダニー:まだそのエピソードは見てないんだよ。見た人の話は聞いたけど、伝聞に過ぎないから、自分で見るまで何とも言えない。悪意を込めたギャグは『シンプソンズ』の定番だし、とにかく近いうちに見てみるよ。



―『バットマン』(1989年)でプリンスとの共作を拒んだ話は有名ですが、彼とはどんな交流がありましたか?

ダニー:いや、プリンスとは会ったこともないし、話したこともなかったよ。『バットマン』でオファーされたのは、プリンスが曲を書いて、私がそれをオーケストラ・アレンジする.....みたいな話だった。決してコラボレーションとかではなかったんだ。私はプリンスに多大な敬意を持っているし、共演だったら非常に興味があったけど、そうでなければあまり関心がなかった。それに自分の中では『バットマン』の映画音楽のイメージが固まっていたし、それを前進させたかった。それとは別の機会にプリンスと共演するのが夢だったけど、残念ながらそれは実現しなかったんだ。

―映画音楽を手がける際、あなたはジョン・ウィリアムズの『スーパーマン』やブラッド・フィーデルの『ターミネーター』など既存のテーマやモチーフを引用することに躊躇がないようですが、どのようなポリシーがありますか?

ダニー:あまりこだわりはないんだ。どうしても自分のオリジナル曲じゃなければ嫌だ!と固執することはない。『ジャスティス・リーグ』で『スーパーマン』のテーマを使ったり、『ミッション・インポッシブル』(1996年)でラロ・シフリンの『スパイ大作戦』のテーマを使うのは、私自身がファンだし、偉大なテーマ曲を受け継ぐことが出来て光栄だ。それに、名曲を自分なりに編曲するのは楽しい作業だよ。『スーパーマン』のテーマをダークにアレンジしたり、『スパイ大作戦』のテーマに和太鼓を加えたりね。



―ティム・バートンとの関係は『ピーウィーの大冒険』(1985年)から続いていますが、それだけ長続きするのは何故ですか?

ダニー:ティムが私を気に入っているのは、キュートだからだよ(笑)......いや、それは冗談だけどね! ティムの生み出す世界観は唯一無二でユニークだし、彼の作品で音楽を手がけるのは光栄だよ。プライベートでも付き合いが長くて、兄弟のような感じだ。最初から彼との感性はピッタリ合っていたし、これからも一緒に良い作品を作っていきたいね。

―なかなか今後のスケジュールを確定させるのは難しいと思いますが、どんな予定がありますか?

ダニー:私はワクチン接種を受けたし、これから積極的にツアーをやりたいと考えている。10月下旬にはハロウィン・コンサートをやる予定だ。それをきっかけに本格復活したいね。2022年には世界中でライブをやりたいんだ。元々、2020年に映画音楽の仕事を入れなかったのは、世界中でライブをやるつもりだったからね。4月にコーチェラが終わったら、その足でロンドンに行って、ヴァイオリン・コンチェルトのドレス・リハーサルに参加する予定だった。8月にロンドンの“プロムス”でプレミア上演することになっていたんだ。恒例の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』コンサートもあったし、チェロ・コンチェルトを完成させたばかりだ。そのすべてが頓挫してしまった。2022年には、その幾つかでも復活させたいんだ。この秋、ライブ活動を再開出来るかは判らないけど、私はそれを信じているよ。そうしたら必ず日本にも戻る。もう何度も日本を訪れてきて、さまざまなインスピレーションを受けてきたんだ。2022年に予定しているコンサート企画のひとつでもふたつでもみっつでも、ぜひ日本で実現させたいね。




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