ダニー・エルフマンが語るロックと映画音楽、ディストピア的世界観とノイバウテンへの共感

 
オインゴ・ボインゴ時代と2021年の世界

―オインゴ・ボインゴ時代の「Insects」(邦題:昆虫性精神分裂症)をセルフカバーしたのには、どんな経緯があったのですか?

ダニー:コーチェラでプレイすることを前提に、新しいアレンジを加えたんだ。『Nothing To Fear』(邦題:オインゴ・ボインゴの謎 、1982年)からの昔の曲だけど、すっかり鮮度の高いサウンドになったよ。それでアルバム用にレコーディングすることにしたんだ。

―コーチェラでは他にどんな曲をプレイする予定だったのですか?

ダニー:「エイント・ディス・ザ・ライフ」、「グレイ・マター」、「オンリー・ア・ラッド」、「インサニティ」......決してグレイテスト・ヒッツ・ショーをやるつもりはなかった。アメリカのディストピア的な情景を描いた曲を中心にピックアップしたんだ。80年代当時、可能性は決して皆無ではなくとも絵空事に思えたことが、2021年にすべて現実になっていることに驚く。自分が恐れていたことすべてが実現したんだ。世界が陥った現状を、新旧の曲で表現したかった。




―「Choose Your Side」でドナルド・トランプ元大統領のスピーチをサンプルしたり、「Love in the Time of Covid」では“新型コロナウィルス下の恋愛”をテーマにしていますが、2021年という“時代”はどの程度意識しましたか?

ダニー:『Big Mess』では現代社会のコメンタリーと自分の意見をクロスオーバーさせたんだ。アルバムを完成させて気づいたのは、多くの曲を一人称で書いたことだった。オインゴ・ボインゴ時代の曲の大半はキャラクターの視点から書いたものだったんだ。2020年の初め、私はとてつもなく怒りとフラストレーションを感じていた。抑え切れずに、自分の内面を曝け出さずにいられなかったんだ。ただ、「Love in the Time of Covid」は例外だった。この曲は第三者の視点から描いたものだよ。小さなアパートに住む欲情した20歳の若者の視点から歌ったんだ。

―『Big Mess』はロック/ポップ・アルバムとしては『SO-LO』(1984年)から37年ぶりとなりますが、ストリングスなどが入ったり、従来のロックやポップとは一線を画しています。また、全18曲という長さも、オインゴ・ボインゴ時代のLPよりはるかに長いものですね。そんな相違点は、意図したものですか?

ダニー:ロックのアルバムを作るのは本当に久しぶりだったし、曲数も内容も、どこでストップすればいいか判らなかったんだ! 2020年4月にアルバム用の曲を書き始めて、当初は5、6曲ぐらい書けばいいと考えていた。でも、とにかく止まらなかったんだ。それで7月にマネージャーに連絡して「〆切がないと100曲ぐらい書いてしまうことになる」と言った。18曲ぐらいで一段落をつけたのは正解だった。それからレコード会社のA&R達に聴かせたけど、みんな驚いていたよ。その表情を見ることでかなり満足した。自分が音楽をやるのは、大勢の人を驚かせたいからというのが大きいんだ(笑)。良くも悪くも、相手の予想を裏切ることを狙っているよ。

―レコーディングの作業は映画音楽とはどのように異なりましたか?

ダニー:『Big Mess』の曲作りはきわめてシンプルだった。去年の大半をロサンゼルス郊外の家で過ごしたけど、マイク1本とエレクトリック・ギター1本、そしてコンピュータしかない小さな書斎で書いたんだ。でも、それが功を奏したと思う。かなり初期段階で決めたのは、きれいに洗練されたアルバムにしないということだった。ヴォーカルの大半はワン・マイクで録ったもので、後で直したりしなかったんだ。大抵ファースト・テイクがベストだからね。音程や技術的にはもっと良いテイクを録れて けど、最もフィーリングが込められているのはファースト・テイクなんだ。だから少しばかり音がズレていたりギターのチューニングがおかしくても、まあ仕方ないと考えた。それまでやったことのないチャレンジだったし、楽しかったよ。

 
 
 
 

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