プロジェクトのボスだということを自覚させた
ーあなたは2019年からDMXと新作を作るんだと言っていましたね。そこからどんな風にアイデアが膨らんでいったんですか?
この作品についてはずいぶん前から話が持ち上がっていたんだが、(2020年7月に)『Verzuz』をやった後、あいつの準備が整った。本人にも周りが愛情を示してくれるのがわかったし、ファンの方も準備OKだった。それで以前だったらウンと言わなかったようなことやフィーチャリングも受け入れてくれた。俺たちはただその前向きなエネルギーをキープして、あいつをスタジオに引き留めただけさ。
X(DMXの愛称)は疲れていた。アルバム制作中ずっと彼はエキサイトしていたが、「これが俺の最後のアルバムになると思う」と言っていた。俺は「まずはこれをやっつけて、その後で様子を見よう。決めるのは後にしよう、今は決めつけるのはよそう」と言った。この先やらないことを考えるんじゃなく、今に集中させたかったんだ。だが明らかに、俺たちには分からないことがあいつには分かっていたんだよ。
ーそれが理由で、一緒に曲作りをするモードに戻るのに苦労したんですね?
ああ、あいつは本当に疲れていた。あいつが英気を養うめにナッシュビルに行って、いくつか歌詞を書いていたのは知ってる。だがあいつのほうから電話してきて「そろそろやるか」と言った。Verzuzをやって、それで流れをつかんだ。あいつとの仕事のために、俺も他の仕事は全部ストップした。そしてスケジュールを組んだ。それがXとの仕事のやり方なんだ、スケジュールを組んであいつに全てを仕切らせるんだよ。
俺が心がけていたことがひとつある。いつもあいつを励まして、お前がプロジェクトのボスなんだと理解させたんだ。俺が出しゃばってお前は引っ込んでろ、っていうんじゃなくね。あいつがやりたくないことがあれば、「いいか、これはお前のプロジェクトなんだ、お前が乗り気じゃないならやめよう」と言った。俺があいつにとやかく指図したことは一度もない。むしろ、あいつが何をやりたいのか尋ねた。あいつはこれまでの人生、ずっと周りからあれしろこれしろと口出しされてきた。あいつにはそういうのは通用しない。だがあいつを巻き込めば、全く違うDMXが現れる。「こいつはお前のアルバムだ、お前のものだ、お前が作りたいものだ。みんな勝手なことを言ってるが、俺がここにいるのはお前が求めるものをやるためだ」。お前がボスで、これはお前の作品。そうやってあいつに力を与えるんだ。