精神障害・疾患は特別なことではない、求められる正しい認識

スティグマとは、元々は鋭利な器具で刺された後に皮膚に残る消せない傷跡を示す言葉です。転じて、道徳的なことも含めて何らか劣っているために身体にシミをつけられた「汚れた人」を指す比喩として用いられるようになりました。精神障害・疾患に関するスティグマは世界的な課題のひとつで、①知識(無知)②態度(偏見)③行動(差別)の3つの要素に分かれます。「知識(無知)」はメンタルヘルスに関する無知とともに、間違った情報や固定観念を持つことも含みます。「態度(偏見)」は、例えば「うつ病は怠けているだけだ」とか「弱い人がなるものだ」というような誤情報や固定観念に同調したり、精神疾患を持つ人を恐れたり批判したりと、否定的な反応を示すことです。「行動(差別)」は、偏見に基づいて実際に排除しようとする行為などです。こうしたスティグマは、メンタルヘルスに問題を生じている人の精神科受診を遅らせて症状を悪化させてしまったり、社会復帰を困難にさせてしまったりする原因となります。

スティグマが生じる要因の一つに、マスメディアによる報道のあり方の問題があります。何かの事件に精神障害者が関わっていると判明すると、入院歴や通院歴があることなどがセンセーショナルに報道され、それによって「精神障害者は危険である」といったスティグマが助長されてしまっています。日本では新聞報道でも1970年代まで「野放し異常男」「精神病者荒れ狂う」などの露骨な表現とともに強烈な負の印象づけがなされたため、今日に至っても未だにそれによって生じたスティグマが消えていないのです。全国精神障害者家族会連合会は「病歴を報道することは精神障害者への偏見を助長し、精神科への受診を阻害することになる」ため、病歴報道をすべきではないという要望を報道各社に行いましたが、あまり実質的な変化は見られていないようです。実際は、犯罪白書の統計などを見ても精神障害者の犯罪率は極めて低いことがわかっています。また、かつて日本では精神障害者を危険で社会に迷惑をかける存在として、家族の責任として「座敷牢」に閉じ込めておくということが国の政策として行われていたり、過去の一部の精神病院の劣悪な環境のイメージが社会に流布したりしたことなども影響していると思われます。

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