アレサ・フランクリンのアルバム『Lady Soul』をマリアージュ、鳥居真道が徹底考察

誰かとご飯を食べているときに、「あ、クミン」とか「うーん、五香粉の匂い」とか言っているのを聞くと、その人がとてもかっこよく見えます。自分も調味料を言い当てられるようになりたいものです。私のレベルでは、例えばラーメンを食べているときには、ラーメンの味がするな、としか思いません。正直美味しいかどうかも定かではない。けれども脳みそからハッピージュースが分泌されているような気配は感じる。それが美味しいということなのでしょうか。あるいは、不味かった場合にはさすがに不味いと感じるので、不味くなければ美味しいということなのでしょうか。いずれにせよ、味覚に関していえば、かなりぼんやりしているといえます。単に端から味わうことを放棄しているだけなのかもしれません。

しかし、音楽の場合はどうか。例えば、録音されたエレキギターの音であれば、それがソリッドなのか箱物なのか、ピックアップはシングルなのかハムバッカーなのか、ピックアップのスイッチはどのポジションにしているか、エフェクターは何を使っているか、アンプの種類はどれか、ピックは柔らかいのか硬いのか、弦は太いのか細いのか、ピッキングしているのはブリッジ側なのかネック側なのか、といったことはなんとなく予想がつきます。正月の特番のように目隠しテストをして正確に言い当てられる自信はまったくありませんが、昔と比べたらその音から引き出せる情報がそれなりに増えたことは確かです。

思えば、ビートルズを聴き始めた頃は、誰がボーカルを取っているのかも判別がつかないものでした。舌にせよ耳にせよ、それらが肥えてくると差異のネットワークが形成されて、要素を細かく分解して認識できるようになります。

Rolling Stone Japan 編集部

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