ブラーのデーモン・アルバーンが語る、トニー・アレンとアフリカ音楽から学んだこと

トニー・アレンとデーモン・アルバーン(Photo by Stars Redmond)

トニー・アレンの遺作『There Is No End』がリリースされた。本作は、彼のドラムをベースに構築したトラックで国籍様々な新進MCがラップするという、自身のスピリットを次世代に引き継ぐ、まさに遺言のようなコラボレーション・アルバム。パンデミックの影響もあり、腹部大動脈瘤で急死した時点で録り終えていたのはトラックだけで、長年のコラボレーターであるフランス人プロデューサーのヴァンサン・テーガーが音源を預かり、本人のヴィジョンを尊重して完成に導いたという。

そんな中で唯一生前に仕上がっていた曲が、ひとつだけある。ブラー/ゴリラズのデーモン・アルバーンが共作・プロデュースした「Cosmosis」だ。約20年前に出会った彼とトニーは、ザ・グッド、ザ・バッド・アンド・ザ・クイーン及びロケット・ジュース・アンド・ザ・ムーンの2バンドを相次いで結成。ほかにも数多のプロジェクトで行動を共にし、トニーは、フェラ・クティを除いて最も長く、かつ密なコラボ関係をデーモンと結ぶことになる。またデーモンにとっても、2000年代以降活動域を広げていく上で、トニーがカタリストの役割を果たしたことはご承知の通りで、最愛のバンド仲間・親友・師のためならと、特別に取材に応じてくれた。以下は、「Cosmosis」のセッション、アフリカン・ミュージックへの情熱、そしてトニーとの関係について彼が語る、貴重なインタビューである。


トニー・アレンのドラムは「宇宙」

―あなたとトニーは多くの時間を一緒に過ごしてきましたが、彼は以前からこの『There Is No End』のような、若い世代と共演するアルバムを作りたがっていたんでしょうか?

デーモン:っていうか、トニーはいつだって若いアーティストに関心を持っていたし、そもそもコラボレーションが大好きだったんだよ。そして、彼は常に音楽を作り続けていた。立ち止まることを知らない人なんだ。自分の豊かな体験を次世代のミュージシャンに引き継ぐことを、いつも考えていたっけ。それを自分の使命のひとつだと捉えていたようなところがある。だからこういうアルバムが完成したことを喜んだんじゃないかな。と言いつつ、実はほかの曲はまだ聴けていなくて、『Cosmosis』の話しかできないんだけど、あの曲のセッションは、僕がトニーと過ごした最後の時間になった。親愛なる友とね。そういう意味では本当に貴い時間だったよ。



―『Cosmosis』は、作家のベン・オクリとグライムMCのスケプタという、ふたりのナイジェリア系英国人をフィーチャーし、“3世代のナイジェリアンの対話”という形をとっています。どのような経緯でこの組み合わせに行き着いたんですか?

デーモン:最初はベンとトニーの組み合わせから始まったんだ。僕とこの曲を共同プロデュースしたレミ・カバカ(筆者注:同じくナイジェリア系英国人で、デーモンの右腕的存在であり、ゴリラズのラッセルの声を担当している)が、以前からトニーとスポークンワードの曲を作りたがっていて、まずベンに声をかけた。彼とトニーの間には完全な意思の疎通があったと思うよ。それにベンのような文筆家にとってこういうレコーディングに参加するのはスリリングな体験だっただろうし、僕らにとっても、彼みたいに学識を備えていて筆が立つ人と過ごすのはスリリングだったし、お互いにとってプラスの結果が得られた。あのセッションは本当に楽しかったし、僕の心には真に喜びに満ちた時間として深く刻まれているよ。

―じゃあ、スケプタはあとから加わったんですね。

デーモン:そういうわけでもなくて、最初から説明すると、僕らはトニーの80歳の誕生日を祝うために、去年11月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでパ-ティーを開こうと企画していたんだ(筆者注:トニーは昨年8月に80歳の誕生日を迎えるはずだった)。それで色んな人に出演を打診して準備を進めていて、そのプロモーションに使うために、トニーを交えてゴリラズ名義の曲をひとつ作ろうと思い立ったのさ。それが「How Far?」(筆者注:昨年5月初めにトニーを追悼するべく急遽リリースされた)で、スケプタを起用しようと決めたんだけど、同時期に『Cosmosis』も進行していたから「こっちにもスケプタをフィーチャーしようか」という話になった。だから、同じセッションで2曲レコーディングしたんだよ。



―スポークンワードというアイデアから始まったからこそ、『Cosmosis』でも「How Far?」でも、ドラムだけでなくトニーの声が聴けるんですね。

デーモン:ああ。こういう曲にして本当に良かったと思っているよ。まさかあれが最後になるとは夢にも思っていなかったから。トニーは、僕がこれまでに出会って時間を共有してきた大勢の人たちの中で、最も生命力に溢れていて、元気で、タフな人間だった。マジな話、誰よりもトニーが長生きするとみんなが信じていたくらいだよ。亡くなったと知らされた時に受けたショックの大きさは、言葉では言い表せない。当時僕はデヴォンにある家に滞在していて、家族のために夕食を作ろうと思っていたところだった。そこに電話がかかってきて、足の力が抜けて床に崩れ落ちてしまった……。以来、いつも彼のことを考えているよ。恋しくてしょうがない。僕にとって真に特別な存在だったからね。

―ざっくりした質問になりますが、そんなトニーのミュージシャンとしての魅力は、究極的にはどんなところにあると思いますか?

デーモン:トニーはユニークなんだよ。そして彼のドラムは……なんていうか、コズミックなんだ。宇宙の幾何学や振動と直結していて、同時に極めて本能的で、極めてモダンで、彼が生み出したリズムのパターンから、途方もなくたくさんの音楽が生まれることになった。だからこそ、年を取ってからも若いミュージシャンと何の苦労もなくコラボできたんだろうね。

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