霜降り明星・粗品が語るボカロ文化への憧れ、芸人離れした本気の音楽表現

粗品(Photo by Mitsuru Nishimura)


ギミックやアイディアを大切にしたい

―昨年は「ビームが撃てたらいいのに」からVOCALOID楽曲を全部で7曲発表してきたわけですが、その時はアーティストとしての音楽活動をどういう風にしていこうと考えていたんでしょうか?

粗品:VOCALOID楽曲の7曲は、ひとつずつ真似してみたいなと思ったんです。それこそ、ユニゾンの田淵さんが作る楽曲のサビ終わりにちょっと余韻がある感じとか、田中秀和さんの独創的なコードの使い方とか、アヴィーチーが歌じゃなくて間奏に力を入れてる感じとか、そういうのを僕なりにオマージュしつつ、「何がいいんかな」って試してた時期なんですよね。

―たとえば、どんな曲でどんなオマージュの要素があったんでしょうか?

粗品:2曲目に出した「ぷっすんきゅう」は、サビ終わりが田淵さんの真似ですね。サビの最後がちょっとだけ長いんですけど、楽器隊と一緒にリズムよく終わる感じが、田淵さんへの憧れです。その次の「希う」では、サビ前に分数オーギュメントのコードを使ってたりするんですよ。それを2連発で重ねたりしている。そこは田中秀和さんの受け売りです。その次、「最高に頭が悪い曲」ではEDM系の曲をやってみようっていう試みがあって。そういうのを4曲目まで出して、5曲目以降はここから自分でも何か考えたいなと思って作ってます。



―今年1月に発表されたVOCALOID曲の「Hinekure」は、ギターサウンドを使ったロックな曲になっていますが、これについてはどうでしょうか?

粗品:一通り修行や実験をいろいろしてみて、ロックな曲調に関しては、僕の好みというか、普通にバンドサウンドが好きなので、そうさせてもらったんですね。レーベル設立と同時に「Hinekure」を出したんですけど、ユニバーサルミュージックさんの協力のもとギタリストをアサインしてくれて、レコーディングで曲を作れるようになったので、ああいう曲調になったんです。そこから歌詞の方面で面白いことできたらなという発想になってきました。



―あの曲の歌詞は聞き取ろうとしてもなかなか聞き取れない、ダブルラインの歌詞になっていますよね。

粗品:そうなんです。同じメロディー、同じ譜割りで、真逆のことを言うというのをやってみようと思って。あの曲は自分に疑心暗鬼になっていて「暗い自分でいいのか」みたいなコンセプトの曲なんです。「自分は強い」って言い張っているんだけど、もう一人の自分が「いや、お前は弱い」って言ってる。そういうシステムをまず考えた。初音ミクって、普通の曲でも歌詞が聞き取れないことが多いじゃないですか。それを逆に利用して、「強い」と「弱い」をめっちゃしつこく言ってるうちに「偽り」って聞こえるようになってるんです。ぼーっと聴いてたら、「強い」と「弱い」が「偽り」に聞こえる。そういう今までにあんまりないギミックをやりたいなと思って、ああいう曲を出しました。

―なるほど! めちゃめちゃ面白いですね。これって、発想としてはさっき言ってた沢山のタイムラインが一度に流れているフリップネタと同じ構造を持っているわけで。でも、「Hinekure」ではVOCALOIDを使った楽曲で、自意識の葛藤をテーマにしているから、お笑いとは全然別のアウトプットになる。

粗品:確かにそうですね。僕という人間が持ってるコアみたいなものが、フリップネタやったらああなって、音楽だとああなるということですもんね。


Photo by Mitsuru Nishimura

―葛藤をテーマにするというのは「Hinekure」でも大事なことだったんでしょうか?

粗品:そうですね。全員に響くポジティブな応援歌というよりは、「ホンマに死ぬかもしれん」みたいなやつに向けた曲にしようと思って。それを、ロックで解決する人もいれば、バラードで解決する人もいると思うんですけど、僕は驚きで解決したかったんですよね。それで「偽り」のアイディアを考えた。ちょっとでも面白い音楽だと思ってもらえるんだったら嬉しいなと思って、そういうコンセプトにしました。

―誰も考えてなかったタイプのアイディアだと思います。

粗品:ありがとうございます。僕は音楽能力としては初心者スタート、1年目のアーティストという考え方なので。頑張りたいという思いはあるんですけれど、もちろん勝てないと思ってるんですよね。その中で、視覚的要素を大切にしたいなと思ってるんです。目に見えて面白いギミックがあったり、アイディアがあるような曲を重視しています。笑えるとか歌詞がふざけてるとかではなくて、「この人の作る曲は面白い」って思っていただきたい。それを目指してますね。

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