「砂漠のジミヘン」エムドゥ・モクター、新たなギターヒーローが語る愛と革命の音楽

エムドゥ・モクター(Courtesy of Beatink)


伝統と革新を兼ね備えたギタープレイ

モクターは『Afrique Victime』の大半を2019年のツアー中に収録した。トゥアレグ族は半遊牧民なので、『Ihana』のようにメンバーと1週間1か所にこもって収録するよりも、いろんなスタジオで1度に1曲ずつ収録するのが楽しかった、という本人の言葉もさして驚くことではない。こうしたやり方が功を奏し、『Afrique Victime』にはツアー中のエムドゥ・モクター・バンドの息の合った様子がたっぷり収録されている。4人組のバンド編成は、2008年以来タッグを組むリズムギターのアモウド・マダサネ、バンド最年少でドラムの天才スレイマン・イブライム、そしてブルックリンを拠点に活動するベーシストのマイキー・コルタン。コルタンはツアーマネージャーとプロデューサー、レコーディングエンジニアも兼任している。


エムドゥ・モクター(Photo by WH Moustapha)

いろいろな意味で、『Ilana』はモクターのギターの腕前をこれでもかと見せつけた(とくに「Ilana」と「Tarhatazed」は必聴)。『Afrique Victime』も6つの弦を操る超絶技巧には事欠かないが、アコースティックギターの音色とニジェールの自然の中でレコーディングした空気感に彩られ、ずっと軽やかな印象を受ける。自称モクターのファンで、ニコラス・ジャーと人気エレクトロデュオDarksideを組むデイヴ・ハリントンも(いまやモクターとはMatadorのレーベルメイトだ)、「ダイレクトかつ力強く、重厚感と軽やかさを同時に表現する」アルバムだとメールで大絶賛した。

「(モクターの演奏は)私が敬愛してやまないギタープレイの特徴をすべて備えている」とハリントンはこう続ける。「彼は伝統に片足を突っ込みつつも、自分らしいサウンドを奏でる。メロディアスな深い感受性がありながら、ソロの流れと構成にはちゃんと即興性がある。多様なアイデアのほとばしりの中に、何が起きてもおかしくない、というサイケデリックなインプロビゼーションの魔力が潜んでいるのが感じられる。おそらくもっとも重要なのは、彼がバンドと一心同体になって流れに身を任せている点だろう……メンバー4人の結束力は強く、脳みそが溶けだすような、一級品のジャムセッションの真骨頂を見せつけてくれる」

『Afrique Victime』の収録曲には長年温めていた曲もあるそうだ。だが彼の創作プロセスは好奇心主導型で、周りの環境に応じて変化するのもいとわない。「曲を書きとめる、という作業は今まで一度もしたことがありません」と本人。「それで苦労することもありますが、たいていはギターを手にして、頭に浮かんだサウンドや心で感じた音を再現します。いわゆる試行錯誤ですね……それで何度も何度も弾いて、覚えるんです。時には後から演奏したときにリズムを加えたり、ソロのときに突然いいサウンドが見つかると、それを取り入れたり。そうやって少しずつ曲を完成させていくんです」



『Afrique Victime』は親近感にあふれたアルバムだ。人間の胸の内、希望や痛み、弱さをモクターは見逃さない。「Asdikte Akal」は遠く離れた故郷を懐かしく思う1曲。一方「Ya Habibti」は本人曰くレイラに捧げた曲で、2人のなれそめの思い出が詰まっている。「Tala Tannam」も彼女に捧げたと思われる1曲で、モクターのアコースティックギターに合わせて“僕は石で心に君の名前を刻む/林に囲まれているから洗い流されることはない”という甘い歌詞がささやかれる。「Taliat」と「Bismillah Atagah」は、失恋の痛みと報われない想いを優しく包みこむ。オープニングの「Chismiten」は、嫉妬や不安に抗う激しい祈りの曲。アルバムの中でも群を抜く壮大なソロがアクセントを添えている。

Translated by Akiko Kato

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